ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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コラム 海外経済の潮流116大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 野々山 裕樹中国の人口動態の変化と経済への影響中国は改革・開放政策以降、安価で豊富な労働力に下支えされて、高い成長率を実現し、現在GDP世界第2位の経済大国となった。しかし、これまでの高い経済成長を支えてきた生産年齢人口(15~64歳)の増加も2014年にそのピークを迎え、減少が始まり、少子高齢化も進んでいくことで、今後の経済成長への懸念が示されている【図1】。そこで、本稿では人口動態に関する中国政府の政策と中国経済に与える影響について概観する。中国では、人口に対する政策について、極端な人口増加と懸念されていた食糧難に対処するため、従来1組の夫婦につき子どもを1人に制限する、「一人っ子政策」が実施されてきた。これにより、当初の目的に対応することができたものの、その副作用として、少子高齢化や生産年齢人口の減少を招くことになった【図2】。そこで、少子高齢化に対応するために、政府も「一人っ子政策」の段階的緩和を進め、2016年には一組の夫婦が2人目の子どもを産んでよいとする、「二人っ子政策」が全面的に実施され、人口の少子高齢化に対処する積極的な政策が開始された。しかし、制度的に産むことができる子どもの数が増えても、養育費や不動産価格の高騰等の経済的な理由から、必ずしも全ての夫婦が2人目の子どもを望むとは限らないことも指摘されており、実際2017年の出生数は2016年に比べて63万人少ない、1,723万人となった。今後は政府によって更なる緩和政策が予想されるが、上記のような背景を踏まえた、支援策が重要になっていくと考えられる。また、人口動態が変化することによる中国経済への影響については、少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少に転じたことにより、今後働き手の確保が困難になっていくことが挙げられる。実際に足元でも、主要都市の人件費は、生産年齢人口が減少に転じた2015年以降、他の地域と比較して上昇傾向にあるなど、人手不足に対応するために、人件費の引き上げが必要となってきている様子がうかがえる【図3】。そして、これが製品の生産コストの増加を招き、国際的な競争力の低下につながっていくことが懸念される。そのため、中国では人手不足を解消するために、省力化のニーズが高まっており、ロボットやAI等の最先端技術を利用することで、労働生産性の向上に貢献していくことへの期待も高まっていると考えられる。この流れを後押しするよう、中国政府が2015年に策定した「中国製造2025」では、中国が世界の製造強国のトップになることを目標とし、重点的に推進する分野として、10の産業が示されており、ロボット産業と次世代情報技術産業も含まれている【図4】。更にロボット産業では、2016年に、個別の行動計画として「ロボット産業発展計画」が公表され、2020年までに、雇用者1万人に対するロボット数(ロボット密度)を150台にすること等が目標として掲げられている。2016年時点の中国のロボット密度は、68台と目標を下回っているものの、2013年時点の25台と比較すると、3年間で2倍以上の増加となっており、目標に向けて高いペースで伸びている【図5】。また、現状、産業用ロボットは輸入が中心となっているが、国内生産も進めており、鉱工業製品の生産高においても、産業用ロボットは足元鈍化しつつも、引き続き増加している【図6】。これらの産業ロボットが様々な分野に導入されることで、製造業全体の省力化、生産性の向上や品質の向上に貢献し、今後の中国経済発展に寄与していくものと考えられる。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。48 ファイナンス 2018 Nov.連 載 ■ 海外経済の潮流

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