ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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評者渡部 晶金子 隆一 執筆新時代からの挑戦状  未知の少親多死社会をどう生きるか一般財団法人厚生労働統計協会 編集 発行 2018年7月  定価1,500円(税抜)我が国が「人口減少社会」に入ったことは様々に報道され、かなり広く知られるようになった。本書は、人口学の第一人者である金子隆一氏(明治大学政治経済学部特任教授 前国立社会保障・人口問題研究所副所長)が執筆や座談会に参画し、今後の「人口減少社会」の本当の姿について人口学の視点から説明する(第一部)とともに、村木厚子氏(元厚生労働事務次官)や宮本太郎氏(中央大学法学部教授)と話しあったもの(第二部)である。第一部は、「「人口減少社会」とはどのような社会なのか―その実相を人口学の視点から解き明かします―」として、「はじめに」、「一.日本の人口動向の概観」、「二.人口変動がもたらす課題と対処」、「おわりに―人口変動は新時代からの挑戦状か、招待状か」、第二部は、「座談会 人口減少社会の中で、平成の三〇年間を振り返り、新しい時代の生き方を探る」として、「一.今後の人口減少社会の姿と課題」、「二.平成の三〇年間をどうみるか」、「三.今後の時代をどう生きるか」と構成されている。紙面が限られていることから金子氏が人口学の知見をわかりやすく解説した、第一部を主として紹介したい。第一部の「はじめに」で、「現在の日本が直面している人口減少、少子高齢化という社会変動は、これまで日本社会どころか人類が経験したことのない、歴史的な一大事」との認識が示される。そして、「現在社会がよって立つ理念や、それを支える基本的な仕組みそのものが、新しい状況の中で、私たちの社会の存続を脅かし始めている」。「人口高齢化は民主主義や資本主義の仕組みを介して少子化を助長し、少子化がいっそう深刻な高齢化をもたらすという困った循環をつくり上げ、そのままでは社会は限りなく縮退に向かう」と断じる。この「悪循環の罠」にとらわれないためには、「システムの根本的な改革、あるいは理念からの再構築が必要」だとする。「一.日本の人口動向の概観」では、日本の人口増加の終息や減少が、生物一般の例のように死亡率の上昇によって起きるのではなく、出生率の低迷によって起こっていることに注意を喚起する。「この社会において、世代の再生産サイクルに大きな問題が生じている」ことを示しているように見えるという。社会経済の成り立ちの基本となる人口の年齢構成について、人口ピラミッドでみると、1965年に中位数年齢(人口を半分に分ける年齢)が27.5歳であったのが、2065年には55.7歳となると推計されており、驚くべき高齢社会といってよい。また、長寿世界一と最低水準の出生率の組み合わせが長期に継続するため、21世紀を通じて、日本人口の減少ペースは世界有数、高齢化率も世界トップクラスであるという。さらに、「少子化対策」のように人口変化に影響を与えようとする政策は、長期間政策を継続して親世代を増加させていくものであり、仮に成功したとしても、その実質的な成果があらわれるまで長い年月がかかること、今後急速に八五歳以上人口の割合が高くなること、2040年にピークを迎える「多死社会」が続くこと、最大の問題は、都市部の高齢人口が急増すること、との指摘は見逃せない。「二.人口変動がもたらす課題と対処」では、先進国の中でも家族制度(核家族vs直系家族)の違いにより、合計特殊出生率水準に二極化がみられることを指摘する。また、現在の若者の4割~半数が孫(およびその後の子孫)を持たず、それ以降家系が消滅するという。これらは、日本人の家族や人生が従来のイメージから一変するという問題だと喝破する。金子氏は、我が国が世界に誇る「長寿化」の果実を応用することに現実的な打開策を見る。1960年の六五歳の健康度を「高齢」の定義と考えてみると、2010年では男性74.7歳、女性76.5歳で、2065年ではほぼ八〇歳からということになるというのだ。より一般化した「真の全員参加社会」(高齢者であれ、障害者であれ、女性であれ男性であれ、各種マイノリティーであれ、全ての人がその持てる能力を最大限に発揮することが基本的人権として認められる社会)を目指すことに光明があるというのだ。第二部でもさまざまに議論されているが、国連で採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)の理念の1つ「Leave no one behind」(誰一人取り残さない)という社会的な枠組みを日本において真に構築できるか、我々に課された課題は重く大きい。まずは、人口学からのこの現実を直視する必要がある。ぜひ、一読をお勧めしたい。 ファイナンス 2018 Nov.43ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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