ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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に伝え、与右衛門の立廻りでは様式美をたっぷりと見せ、醜く変貌したかさねに斬りつけて修羅場となった二人の立廻りでは、連理引きなど歌舞伎ならではの技法も披露、最後まで息をもつかせぬ張りつめた空気が劇場に満ちたとのこと。平安時代、朝廷に恨みを抱いた鳴神上人は、世界中の龍神を滝壺に封じ込め、その結果雨が一滴も降らなくなる。そこで、鳴神上人の行法を破り雨を降らせるべく、帝は雲絶間姫を鳴神上人のもとに差し向けるが…。美貌の雲絶間姫の色香によって高僧である鳴神上人が堕落、破戒する分かりやすい筋立てで、男女の愛欲情痴を描き出す。前半は古風でおおらかな台詞劇、後半は豪快な荒事と見どころの多い一幕。軽妙なやりとりで和ませ、雨を降らせないほどの力を持つ高僧(獅童)が、妖しいほどの色香を放つ姫(七之助)に籠絡されていく様子は、古典歌舞伎らしいおおらかな演技で見た目にも面白く、パリの観客をぐいぐい引き付けていき、ぶっ返って(一瞬の衣装替え)からは柱巻の見得から六方の引込みまで、鳴神上人の見せ場が続き、大きな拍手と歓声が幕が降りた後も長く続いたとのこと。ル・フィガロ紙も「シャイヨー劇場で、日本の伝統芸能 歌舞伎2作品が上演された栄誉」として、「この華麗な芸術がフランスで公演されたのは非常に稀少な機会であり、一大イベントである。」と報じた。(3)能楽、狂言ラグビーが貴族の、サッカーが庶民のスポーツであるように、かつて、能は武士のもの、歌舞伎は庶民のものだったという。詩人大使、ポール・クローデルも能には高い関心をもっていたのみならず、自らの文学作品にも能の手法を取り入れるなどその影響を受けている。来年2月、シテ・ド・ラ・ミュージックで、野村萬、梅若実、浅見真州ら現代一流の能楽師による本格能舞台。ただ、歌舞伎のように観ていてストレートに内容がわかるものでもないので、生の能は武士でない日本人が見ても最後まで意識を保つのは難しいかもしれない。耳で聞いても分からないなら、台本を読んだら分かるかと思って、かつて司馬遼太郎がトラックで乗り付けて大人買いをしていったという古本屋で山積みの台本を見たが、やはり門外漢には理解困難。当然、生の能を理解してもらうのはフランス人にも難しいかもしれない。今回も「宮本亜門演出 能×3D映像「幽玄」では、演出家の宮本亜門が、観世流能楽と3D映像を初めて融合させた新たな日本文化を創造。ヴェルサイユ宮殿にて、能の演目「石橋」と「羽衣」をベースに3D映像で日本の自然を表現し、美しき日本の幽玄の世界を舞台上に再現。3Dメガネで、3D映像と能による美のコラボレーションを楽しむ。日本の伝統芸能と最新テクノロジーの融合。(「宮本亜門演出 能×3D映像「幽玄」©KOS-CREA 写真提供:国際交流基金(赤獅子:観世三郎太、白獅子:坂口貴信)狂言も現代風にアレンジ。フランス芸術文化勲章オフィシェを受章している現代芸術作家・杉本博司による舞台空間の中、人間国宝野村万作、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開会式・閉会式の演出も務める野村萬斎、野村裕基による親子三代による「三番叟」。(4)雅楽、人形浄瑠璃文楽、日本舞踊この他、伝統芸能では、宮内庁楽師だった東儀秀樹が現代音楽と共演したCDを出して注目を浴び、最近人気が高まっているという雅楽。宮内庁式部職楽部による雅楽のほか、元宮内庁楽師で、雅楽師として初めて文化勲章を受章した芝裕靖を中心に結成した雅楽の演奏グループで、世界各国で公演をしている「伶楽舎」が現代風雅楽作品を演じる。9月3日の宮内庁楽部の42年ぶりのパリ公演では、ゆったりとしながらも躍動感のある舞が満席の観客2400人を惹きつけたという。ユネスコ無形文化遺産に登録されている舞台芸術・人形浄瑠璃文楽や、人間国宝・井上八千代、富36 ファイナンス 2018 Nov.SPOT

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