ファイナンス 2018年11月号 Vol.54 No.8
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在フランス日本国大使館参事官 有利 浩一郎今回は、日仏修好通商条約に付された貿易章程第3則から第7則までについて、フランス外務省外交史料館所蔵の仏文(筆者による現代語仮訳)、カタカナ文、漢字かな混じり文を元に解説することとしたい(仏文原文は貿易章程全文を本文末に掲載)。5日仏修好通商条約に付された貿易章程の内容(3)第3則日仏修好通商条約、その内容と フランス側文献から見た交渉経過(6)~日仏外交・通商交渉の草創期~【仏文(現代語仮訳)】第3則商品の陸揚げを希望する当該商品の所有者又は荷受者は、日本税関にその申告を行うものとする。当該申告は、書面にて行い、輸入を行う者の名及び当該商品が存する船舶の名並びに荷物の数*1及び記号を含むものとする。それぞれの荷物の内容及び価格は、同じ書面において別々に確認記録するものとし、申告書の末尾では、税関に入るすべての商品の価格を合計するものとする。それぞれの申告書については、所有者又は荷受者は、当該申告書に商品の現時点での価格が記載されており、かつ、日本税関を妨げる目的で何も隠匿していないことを書面により証するものとする。所有者又は荷受者はこの証明書に署名を行うものとする。このように輸入される商品の仕入書は、税関当局に提示され、当該当局が申告書に記載する商品を検査し終わるまで当該当局に留め置かれるものとする。日本職員は、このように申告された一又は複数の荷物を検査することができるとともに、必要と判断する場合には、そのために当該荷物を税関に移動させるものとする。ただし、この検査は、輸入者においていかなる費用も生じさせてはならず、商品に損害を生じさせてはならず、かつ、その検査の後、日本人は当該商品を荷物の中に、かつ、できるだけ当初当該商品があった通りの状態で戻すものとする。当該検査は、遅滞なく行わなければならない。商品の所有者又は輸入者は、自らに当該商品が引き渡される前に輸入航海中において損傷したことを自ら知ったときは、生じた損害を税関当局に通知することができ、かつ、損傷した当該商品は、能力があり利害関係のない二又は複数の者により評価されるものとし、当該者は、十分な調査の後、荷物の記号及び番号を記載しつつ別々にそれぞれの荷物において明らかとなった損害額を百分率で知らせる証明書を交付するものとする。当該証明書は、税関職員の立会いの下、鑑定者により署名され、輸入者は、妥当な減額を行いつつ当該証明書をその積荷目録に付すものとする。ただし、このことは、税関職員がこの規則が付されたこの条約第十五条に示す方式にしたがって当該商品を取得することを妨げるものではない。税が支払われたときは、所有者は、その商品が税関にあろうと船舶を離れていなかろうと、当該商品を引き取るための許可証を受領するものとする。輸出向けのすべての商品は、船内への移動の前に日本税関を通過するものとする。通関申告は、書面にて行われ、荷物の数、その記号及びその内容物の価格とともに、当該商品の輸出を行うことになる船舶の名称を含むものとする。当該商品を輸出しようとする者は、当該申告がその記載するすべての商品の真正な報告書であることを書面にて証明するものとし、当該申告に署名するものとする。輸出のための通関前に船舶の船内に荷揚げされたすべての商品及び禁制品を含むすべての荷物は、日本政府により差し押さえられるものとする。フランス船舶、その乗組員及びその旅客の使用に供する備蓄品及び旅客の衣服については、通関を要しない。【カタカナ文】第三ノ キソクシナモノヲ オクリタル モチヌシ マタハ シナモノサシムケサキノヒト コレヲ ヲカニ アグルコトヲ 子ガフモノハ ニツポンノ ウンジヤウヤクシヨヘ ソノ シナモノヽ サシダシヲ イダスベシ ソノサシダシハ カキツケニシテ サシダシヲ イダスヒトノナ ソノシナモノヲ モチワタリタル フ子ノナ シルシ バンヅケ ツヽミ ソノイリダカ ナラビニ *1) 5(1)の注9で述べたように、ここでも、荷物の記号及び「番号」と規定すべきところ、仏文では荷物の「数」及び記号と規定している。なお、3(9)で述べたように、日本との条約交渉を終えた使節団は、長崎のオランダ出島商館長ドンケル=クルチウスに日仏条約の蘭文版の仏文訳を頼み、その結果出来上がった蘭文版の仏文訳が仏外務省外交史料館に保管されているが、そこでは「番号」とあるのは「数」を指すと注釈がつけられ、あたかも日本側通訳の森山栄之助が、オランダ語訳に際し「数」と訳すべきところ「番号」に翻訳し誤ったと仏側が思っていた節が見られる。しかし、日英条約貿易章程、さらには日米条約貿易章程のthe marks and numbers of the packagesの表現はやはり「荷物の記号及び番号」を表していると捉えるのが素直であり、森山の翻訳の方に分があったと考えられる。12 ファイナンス 2018 Nov.SPOT

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