ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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本で働きたいという社員はいない。日本的な働き方では本当のダイバーシティは実現しないのだ、という思いで西井社長は働き方改革に取り組んでいるのです。味の素では現在7時間20分労働で、2020年までに7時間労働に移行する予定です。実質賃上げで、ベアも1万円実施しています。8時15分始業、16時30分終業となっていますが、なぜ16時30分に帰るのかというと、「保育園にお迎えに行く人も後ろめたくない」ようにするためです。コアタイムなしのスーパーフレックスや時間単位の有給休暇、軽量モバイルPCの支給により、子供が急に熱を出しても、病院に子供を連れていき、帰って来てからモバイルを使って午後の会議に参加するというように、自宅で支障なく仕事ができるようになったのです。この会社の2人の子を持つ女性研究員に話を聞いたところ、これまで諦めていたことを諦めなくてもよくなった、こんな働き方が前からあったならもう一人子供が欲しかった、と言っていたのが印象的でした。ウ.アクセンチュア・ジャパンコンサルティングのアクセンチュア・ジャパンも「アクセンチュアは長時間労働できつい」という評判の悪化をきっかけに組織風土改革に取り組み、2年間で残業減少、離職率低下、女性比率向上等の成果を生みつつあります。同社は定期的にアンケート調査を実施して問題の把握に努めるとともに、ハラスメント対策も働き方改革の一環として実施しています。アンケート等を通じて長時間労働などハラスメントの予兆あるところには個人が通報する前に組織が介入するやり方を進めています。エ.三重県庁三重県庁では3年近く県を挙げて働き方改革に取り組んでおり、企業にもコンサルをつけています。その結果、県の出生率が20年間で一番伸びました。働き方改革により出生率がアップする良い例です。(2)古い働き方の限界を示す3つの事例古い働き方の限界を示す3つの事例があります。資生堂ショック、電通、ヤマト運輸の3つです。ア.資生堂ショック資生堂ショックというのは、女性が働きやすい環境を整え、女性従業員が80%を占める資生堂において、育児休業や時短勤務の女性にも遅番の勤務や土日出勤を求めていく、というものです。このことは、女性を雇う企業だけで育児を負担する限界を示しています。イ.電通電通の問題は、女性社員の過労自死から社長辞任につながっていったことで経営者にショックを与えるとともに、過労死問題が社会の注目を集めるきっかけとなりました。ウ.ヤマト運輸先ほどもお話しした通り、ヤマト運輸の問題は、過重労働やサービス残業に頼るビジネスモデルの限界を示すことになりました。こうした3つの事例が示すように、古い働き方のOSではデジタル時代のイノベーションには対応できないことが明らかになってきており、多くの働き方改革のニーズが生まれてきているのです。(3)評価と報酬の見直しがポイント現在7割近くの企業が、働き方改革のニーズを感じており、現在進行中ですが、すごくうまくいっている企業はまだ少ないのが実情です。今起きているのは、見せかけの労働時間規制による最悪のシナリオ、つまり現場にしわ寄せがきていることです。「早く帰れ」の掛け声のみではサービス残業、持ち帰り残業が増加します。また若手職員は帰るので、管理職がオーバーワークになってしまいます。生産性が高く短時間で結果を出す社員が評価されず、残業がない分報酬が低いとなると不満が出てきます。そこで社員が積極的に働き方改革に取り組んでいけるようにするため、「生産性が高く短時間で結果を出す社員が評価され、報酬も高い」というように評価と報酬を変えていく必要があるのです。評価と報酬の見直し、これがこれから最も重要なポイントになってくると思います。72 ファイナンス 2018 Oct.連 載 ■ セミナー

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