ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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これは思ったよりも早い。分かりやすい例はAmazonとヤマト運輸の例です。同じようなことがすべてのビジネスの分野で起こっているのです。Amazonという黒船がやってきた。そしてヤマト運輸はAmazonの商品を何時でもお客様の都合が良い時間に配達しますという日本的な働き方のもとで対応してしまった。デジタルイノベーションがやって来てAmazonが成功した、でもそれを足元で支えるのはヤマト運輸の従業員の過重労働、サービス残業だったのです。ヤマト運輸はサービス残業代を支払うことで業績を下方修正せざるを得なくなりました。古い働き方のOS(Operating System:コンピュータの操作等のオペレーションのための基本的、中核的位置づけのシステムソフトウェア)の上には新しいイノベーションというソフトがはしらないのです。こうした3つのシフトを踏まえて、法律的にも働き方改革をしっかりやっていくことが求められたのです。(3)働き方改革で注目する項目私が働き方改革について注目しているのは、労働時間の改革です。これはとても単純な点に着目することです。「時間は有限である」ということなのです。もう一つは「ITによる柔軟な働き方・テレワーク」です。これは本当に格差が出ています。味の素では完全テレワークです。この猛暑に2時間汗だくになって会社に来なくても働けるのです。この生産性の差はとても大きなものではないでしょうか。ここで注意していただきたいのは、いかに柔軟な働き方でも「上限は必要」ということです。フランスではこのたび労働者の権利としてテレワークが認められました。しかし同時にメールがつながらない権利も認められました。仕事のメールを見る場所は会社のパソコンからスマホに代わってきています。このような状態ですと仕事好きな上司がいると、土日でもメールがくる。子供と公園で遊んでいるときでもメールが来てそれを開く。こうなると働き過ぎになってしまう。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、メールがつながらない時間を設けています。何時以降のメールは出しても届かない、土日はメールがつながらない、という仕組みの企業もあります。こうした上限を設けることもテレワークで働き過ぎないために必要なことです。(4)「昭和レガシー企業」と外資・ベンチャーいわゆる「昭和レガシー企業」の場合、長時間労働のDNAがあり、人員構成も45歳以上の男性社員が多いわけですが、こうした企業は昭和の時期に長時間労働で勝ってきたという圧倒的な成功体験があります。レガシー企業については、まずは古い長時間労働DNAをアンインストール(削除)することから始める必要があります。そしてその後に多様で柔軟な働き方に進むべきではないかと思います。一方、外資企業やベンチャー企業などでは、自律的な働き方があり、長時間DNAはなく、社員は40歳以下となっていますが、こうした企業では、多様で柔軟な働き方、選べる働き方、雇用の柔軟性、といった方向にさらに進んでもらったらいいと思います。(5)働き方改革でやるべき3つのこと働き方改革でやるべきことは以下の3つ、「リーダーシップ」「インフラ整備」「マインドセット(意識改革)」です。「インフラ整備」については費用も掛かるので大企業が有利かと思いますが、中小企業では「リーダーシップ」と「マインドセット」の面では大企業よりも早いです。サイズが小さいゆえ、社長さえその気になればいくらでもできるのです。では働き方改革の最終形態はどのようなものなのか、ということになりますが、働き方改革の最終形態はありません。私は「残業が減りました」「利益が増えました」という数字だけのことではなく、社員の幸せと会社の成果がぐるぐると好循環する、そこに新しいイノベーションが起こる、こうしたことが起きてくるのが、働き方改革の一番いい形ではないかと思います。よく「働き方改革」をどうやるのですか(HOW)ということばかり聞かれるのですが、大事なのはなぜやるのか(WHY)です。企業が抱える課題、すなわち労働力不足、イノベーション不足、生産性向上、女性活躍・ダイバーシティ ファイナンス 2018 Oct.69夏季職員トップセミナー連 載 ■ セミナー

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