ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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は十分な裁定取引がなされていることを確認した。筆者らが注目した点は代表的なビットコイン先物がGeminiで取引されるビットコイン価格を以って決済される点である。Geminiとは仮想通貨の取引所の一つであり、Geminiでは1日に1回、ニューヨーク時間の16時にオークションを通じてビットコインのプライシングがなされる。そこで、筆者らはイントラデイデータを用いて、Geminiの入札がある16時の先物価格を取得したうえで、Geminiで取引される価格から標準的なモデルを用いて先渡価格を計算し、先物価格との間に有意な価格差が無いことを検証している*31。図は先物価格と先渡価格を比較したグラフであり、両価格に有意差が無いことが視覚的にも納得できる。なお、Baur & Dimp(2018)も筆者らと同様、日中データ(5分刻みの先物(CBOE及びCME)及び現物価格*32)を用いた分析を行っている。同論文は現物価格が先物価格に先行することを示しており、価格発見機能は先物ではなく現物が担っていると報告している*33。また、ビットコイン市場における日中の動き*31) ビットコイン先物は現金決済であり、国債先物などのように現物決済でないため、キャッシュ・アンド・キャリーを考えるうえでクオリティ・オプションの存在を考える必要がない(ビットコイン先物においていわゆる最割安銘柄(チーペスト)は存在しない)。*32) Bloombergから取得。*33) 同論文は、金融市場では一般的に先物が価格発見機能を担っていることから、この点が金融市場と仮想通貨市場の違いの1つであると述べている。*34) https://coinmarketcap.com/に基づく(2018/8/31)。*35) ビットコインを始めとする多くの仮想通貨は、二重支払い防止などのセキュリティ機能を、マイナーと呼ばれる者が提供するコンピュータの計算能力(通称、マイニング行為)に依存しており、その代わり、マイニング行為を行った者(コンピュータの計算能力を提供した者)に対する報酬として一定の法則に従って新規に生み出されたビットコインを付与することにより、マイナーに対してマイニング行為を行うインセンティブを与えている(Proof-of-Workシステム)。当論文は、Proof-of-Workシステムを前提に、マイナーがマイニング行為を行う際のインセンティブ構造(Incentive compatibility)と二重支払いが行われない条件(Double spending proof)を定式化した上で、一般均衡モデルを構築し、その上で現実のビットコインがどのくらい効率的であり、更に効率性を上げるためにはどのような仕様変更をしたら良いのかを、理論に基づいて呈示している。また、当論文では、マイナーに対する報酬を保有しているコインの量などでウェイト付けするシステム(Proof-of-Stakeシステム。Proof-of-Workシステムの代替システムとして知られている。)についても定式化を行っている。Proof-of-Stakeシステムの経済学的なメカニズムについてはSaleh(2018)も分析している。(intraday patterns)にかかる分析も進んでおり、例えばDyhrberg et al.(2018)はビットコインの日中取引が米国の取引時間と関連性があることを見出しており、個人投資家の取引行動の影響を指摘している。5.結語このように一昨年辺りから仮想通貨市場についての経済学的な分析が相次いで行われるようになってきている。しかしながら、224もの仮想通貨について時系列的な性質を調べたPhillip et al. (2018)および本稿で紹介したBrauneis & Mestel(2018)やWei(2018)などの例外はあるものの、依然として、仮想通貨の時価総額の半分程度*34を占めるビットコインに関する研究が既存研究の大宗を占めており、その他の仮想通貨についての研究は数えるほどであることも事実である。足下では、仮想通貨の一般均衡モデルを構築し、現在のビットコイン等で用いられている仕組みの非効率性を指摘した上で、効率化を図るための仕組みを理論的に提示したChiu & Koeppl(2017)*35、マイナー等図 ビットコインの先物価格と先渡価格0先物価格(①)先渡価格(②)2000400060008000100001200014000160001800020000(USD)17/1218/118/218/318/418/518/6-4000200400600800100012001400(USD)差(①-②)ビット・アスク・スプレッド18/618/518/418/318/218/117/12-200 ファイナンス 2018 Oct.63シリーズ 日本経済を考える 82連 載 ■ 日本経済を考える

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