ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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Fry(2015)は商品や制度的な裏付けがないビットコインのファンダメンタルズがゼロと有意差が無い可能性を指摘している。Schilling & Uhlig(2018)は仮想通貨の価格の値動きがランダム・ウォークから外れる理由を理論的に示している。Aoyagi & Adachi(2018)はスマートコントラクトを用いれば仮想通貨による取引で低品質の商品を買うことになるリスクを低減できる可能性があることを踏まえて仮想通貨のファンダメンタルズを理論的に導出している。仮想通貨の価格変動がいわゆるバブルなどに該当するかどうかを検証している論文として、石田(2018)は上述Cheah & Fry(2015)の他に、Cheung et al. (2015)やFry & Cheah(2016)といった論文を紹介している。足下でも、ビットコインの価格をファンダメンタルズで説明できる部分と説明できない部分に要因分解した上で、後者の発生要因や減失要因などを分析したSu et al. (2018)や、ビットコインの価格をマイナーによるビットコインの生成コストなどを用いて説明したHayes(2018)、ビットコインに加えイーサリアムも分析に加えたCorbet et al.(2018)などの研究が発表されており、価格変動の要因について分析が進められている。3.4.そのほかの研究の紹介Liu & Tsyvinski(2018)では、投資家の関心を、仮想通貨に関するGoogle(インターネットでの検索サイト)での検索頻度やTwitter(インターネット上でのサービス)での発言頻度などを用いて数値化したうえで、価格変動の間に有意な関係が見られたと報告している。Urquhart(2018)は、googleトレンド(特定のキーワードについて、Googleにおける検索頻度を、時系列的にグラフ化するサービス)を用いることで投資家のビットコインへの関心を定量化したうえで、価格変動の大きさや取引量の大きさは次の日の投資家の関心の大きさに大きな影響を与えるものの、投資家の関心の大きさは次の日の価格変動の大きさや取引量の大きさなどに影響を与えていないことを報告し*28) 14カ国のVIXのデータを用い、主成分分析より共通ファクターを取り出すことで算出。*29) 理論的には無リスク金利が非確率的である場合、両者は一致するが、無リスク金利が確率的である場合、両者の間に乖離が生じる。詳細はHull(2014)などを参照のこと。また、特に債券の世界では現物と先物の差をグロス・ベーシス、先渡と先物の差をネット・ベーシスと呼ぶ。*30) 同時期にシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)もビットコイン先物商品を導入したものの、Hattori & Ishida(2018)では売買量の大きさ等の観点でCBOEのみを分析対象としている。ている。また、仮想通貨を異なるアセットクラスやヘッジツールとしてみる研究も出てきている。たとえば、Corbet et al. (2018)は3つの仮想通貨(ビットコイン、リップル、ライトコイン)とその他の金融市場の関連性を比較して、仮想通貨市場が比較的隔離された市場であることを示している。Bouri et al. (2017)はビットコインがグローバルの不確実性*28に対するヘッジ効果を持つ可能性を指摘している。Liu(2018)は仮想通貨の間のポートフォリオの分散効果について分析を行っている。4. 筆者らの研究の紹介 (Hattori & Ishida, 2018)筆者らの研究は先物市場との関係でビットコイン市場の効率性を検証したものである。先物取引(futures contract)とは特定の商品を対象として、事前に定められた受渡日に、取引現時点で決めた価格で取引することを約束する金融契約である。将来の取引を事前に確定させるという観点では、先物取引と先渡取引(forward contract)は、前者が取引所を通じた取引所取引、後者は相対取引であるなど一定の違いがあるものの、本質的に同一の金融取引であるがゆえ、両者の間で裁定取引が行われることにより、似た価格がつくはずである*29。この取引はキャッシュ・アンド・キャリー(cash and carry)などと呼ばれ、為替・商品・債券市場など幅広く検証がなされている。Hattori & Ishida(2018)は2017年末にシカゴ・オプション取引所(CBOE)*30がビットコイン先物商品を導入したことに着目し、伝統的な学術手法に則り、ビットコインの先物と現物の間に裁定関係があることを分析している。特に、ビットコイン市場の場合、現物そのものの非効率性が指摘されていることから、先物市場との間にも非効率性が存在する可能性が否定できない。しかし、筆者らの結果は当該先物が導入されて一定期間が経過して以降、現物と先物の間で62 ファイナンス 2018 Oct.連 載 ■ 日本経済を考える

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