ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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いことを示している。Wei(2018)は456種類の仮想通貨を用いて流動性と効率性の関係を分析しており、ビットコインを始めとする流動性の高い仮想通貨は効率性が高い一方、流動性の低い仮想通貨については効率性が低いことを示している。一方、最近の研究でもビットコイン市場の効率性についてネガティブな意見もある。例えばYonghong et al. (2018)はハースト指数*21を用いて、市場の効率性は時間を経ても向上していないことを報告している。Cheah et al. (2018)は異なるモデルを用いてビットコイン市場の非効率性を指摘している*22。Al-Yahyaee et al. (2018)はビットコイン市場を株式・金・通貨などその他の資産と比較しており、ビットコイン市場はその中で最も効率性が低いとしている。また、効率的市場仮説では説明のつかない価格の変則性(いわゆるアノマリー)も複数観測されている。たとえば、Liu & Tsyvinski(2018)は3種類の仮想通貨(ビットコイン、イーサリアム、リップル)の価格変動を分析した結果、モメンタム効果を確認した。モメンタム効果とは勝者が勝ち続ける一方、敗者は負け続けるという現象であり、金融市場ではしばしば観察されるアノマリーである*23。Kurihara & Fukushima(2017)は2010/7/17~2016/12/29のビットコイン価格について、曜日効果*24が存在していることを報告している。もっとも、このような曜日効果は分析期間の前半では見られるものの、後半ではほぼ見られなくなっている。3.2. 仮想通貨市場における裁定機会に関する既存研究について市場の効率性を検証するため、裁定機会の存在に注目する既存研究も存在する。裁定機会とは、異なる複数の場所での価格差を利用して、リスクなしに利鞘を獲得できる事象のことである。特に三角裁定機会とは、AをBに交換し、BをCに交換し、更にCをAに*21) ハースト指数とは、一定期間における価格のレンジ(変動幅)を正規化した(価格の標準偏差で割った)ときに、それが期間の長さの何乗に比例するかを表現した指数。もし、価格の変動がランダム・ウォークであれば、正規化された価格のレンジ(変動幅)の期待値は期間の長さの0.5乗に比例するはずであるが、ハースト指数が0.5を有意に上回る場合は、価格変動にモメンタムがあるものと考えられ、市場の効率性を否定する傍証となる。*22) 同研究は市場間(cross-market)の価格に焦点を当てており、ビットコイン価格が長期記憶性(Long Memory)を有することを示している。*23) モメンタムは資産価格を決める上での標準的なファクターとして認識されることが多い。Ang(2014)などを参照。*24) 同論文によると、日次リターンが週の半ばとそれ以外の日とでは有意に異なることが示されている。*25) 当論文は、2種類の法定通貨とビットコインの計3つの間で、三角裁定機会が存在していると報告している。*26) 取引所間での裁定機会がなぜ存在するのかについて検討を加えた報道も存在する(Business Insider UK, 2017/11/28, “The 'immature' global bitcoin market is ripe for arbitrage,” written by Oscar Williams-Grut)。*27) 報道でも同様の指摘がされている(Bloomberg, 2018/1/9, “Bitcoin's 43% Arbitrage Trade Is a Lot Tougher Than It Looks,” written by Julie Verhage, Whanwoong Choi, and Kyungji Cho)。交換すると、リスクなしに収益を獲得できるといった事象を指す。まず、Reynolds et al. (2018)は、2013/5/1~2015/12/31のアメリカ東部標準時間11:59~12:01における為替レート及びビットコイン価格を用いたところ、法定通貨間では三角裁定機会が存在しないものの、法定通貨とビットコインの間では三角裁定機会が存在していると報告している*25。また、Makarov & Schoar(2018)は2017/1/1~2018/2/28の種々の仮想通貨取引所におけるビットコインの価格を見ることにより、特に国を跨ぐような取引所間では大きな裁定機会が存在していることを報告している*26。なお、2016年から2018年にかけて、韓国の仮想通貨取引所におけるビットコイン価格が米国などのビットコイン価格を有意に上回る現象(いわゆるキムチ・プレミアム)が指摘されていた。同じビットコインにもかかわらず取引所で異なるプライスがついていることから一見裁定機会が存在するように見えるものの、Choi et al. (2018)は、キムチ・プレミアムが韓国の資本規制に起因しており、実際には裁定機会が存在しなかった可能性を指摘している*27。Hattori & Ishida(2018)は先物と現物の間の裁定機会の存在に着目した研究であるが、本研究の内容は4節で紹介する。3.3. 仮想通貨市場におけるバブルにかかる 既存研究について仮想通貨について市場効率性を検証する別の方法はいわゆるバブルの有無を検証する方法である。経済学におけるバブルとは、ファンダメンタルズから価格が乖離する現象として定義されるが、まず仮想通貨価格のファンダメンタルズに注目した研究を紹介する。Ciaian et al. (2015)およびBouoiyour & Selmi(2015)は取引所などの取引がビットコインを保有することの効用を拡大させるとしている。Cheah & ファイナンス 2018 Oct.61シリーズ 日本経済を考える 82連 載 ■ 日本経済を考える

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