ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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コラム 海外経済の潮流115大臣官房総合政策課 渉外政策調整係長 田邊 宏典中国でのキャッシュレス動向日本では他国と比べキャッシュレス化が十分進展していないことから、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」において、「今後10年間に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」こととされ、キャッシュレス化に一層取り組んでいく方針が示された。一方で、世界を見ると、キャッシュレス化が急速に進んでおり、中国では決済におけるキャッシュレス比率が60%まで増加しているほか【図1】、決済額も203兆元まで拡大している【図2】。そこで、今回は中国でのキャッシュレス化の動向について概観する。現在、中国ではスマートフォンの普及とともにアリペイやWeChatPay等の決済アプリを通じてQRコードを表示させ、それを読み取ることで決済が完了する方法が主流となっている。大型商業施設はもとより、個人間や零細小売業までも使用が可能となっており、現金を使わずとも、QRコード決済だけで生活に困らないと感じる人が多くなっている。また、最近ではアプリ一つで決済だけでなく、ホテル等の予約やチケットの購入ができるなど、他分野のサービスにまで広がっていることも決済アプリの更なる普及拡大につながっている。さらに、サービスの拡大に伴って、決済サービスから得られた信用情報のビッグデータ化が進むことにより、より消費者のニーズに合った情報を提供することで、更なる利便性の向上にもつながっている。中国におけるキャッシュレス化が進展した背景には、中国でのスマートフォンの普及が上げられる。中国では、インターネット利用人口が7.7億人も存在し【図3】、その内、中国のスマートフォン利用人口は7.53億人と、中国のインターネット利用人口の97.5%がスマートフォンを利用している【図4】。そのような状況の中、中国国内でクレジットカードの普及が従来からあまり進んでおらず【図5】、銀聯(ギンレイ)カードに代表されるデビットカードが主なキャッシュレス決済手段であったところに、利用者が事前に銀行口座から決済アプリにチャージし、決済時にQRコードをスマートフォンで読み取る、あるいは、スマートフォンに表示させたQRコードをバーコードリーダーで読み取るだけで決済が終了する決済アプリが普及したことで、スマートフォンを利用したモバイル決済が急増した。それに加え、中国では、現金の安全性(偽札問題)、透明性(脱税問題)、コスト(印刷・流通コスト)にかかる課題が存在したことも、中国でのキャッシュレス化が生活に深く浸透した理由と言える。中国でキャッシュレス決済の普及が進んだ一方で、課題も存在する。規制面での課題として、モバイル決済サービスは金融機関以外の業者によって提供されていることから、従来の金融規制の適用がなく、他人による不正利用やマネーロンダリングに利用されるリスクが存在した。そこで中国政府は2010年以降、モバイル決済に対する規制の整備と監督の強化を進めている。最近では、中国人民銀行が主導して全銀ネット「網聯(ワンリェン)」を開設し、2018年6月からアリペイなどの第三者決済事業者が銀行口座に関わるオンライン決済を受理した場合には、全て網聯を通じて処理しなければならないなどの仕組みを導入した。また、利用面での課題として、原則として中国の電話番号によるスマートフォンを実名登録の上で保有し、決済用の中国国内の銀行口座を作る必要があることから、中国に在住していない外国人や海外からの観光客にとっては不便なシステムとなっている。また、スマートフォンを使いこなせない中国国内の高齢者や、スマートフォンを持っていない農村部の貧困層や農村部からの出稼ぎ労働者が支払いできない状況も生54 ファイナンス 2018 Oct.連 載 ■ 海外経済の潮流

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