ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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(3)日本人の美意識しかし、浮世絵に対するフランス人の期待を見事に裏切るかのように、今年開催される「ジャポニスム2018」の展示プログラムの中に「浮世絵展」はない。何故か?増田事務局長は、「それは、『ジャポニスム2018』は、19世紀のあの『ジャポニスム』ではないからです。」という。「『ジャポニスム2018』は、どのようなコンセプトのもとに生まれたのでしょうか。その一つの答えは、自然を敬い、異なる価値観の調和を尊ぶ日本人の「美意識」です。常に外部から異文化を取り入れ、自らの文化と響き合わせ融合させてきた日本人は、時に相反する価値観がぶつかりあいながらも調和し共存するところに「美」があると評価してきました。日本文化の原点とも言うべき縄文や、伊藤若冲、琳派から、最新のメディア・アートやアニメ・マンガ・ゲームまで、舞台公演では、歌舞伎、能・狂言、雅楽から、現代演劇、初音ミクまで、さらには食や祭り、禅、武道、茶道、華道など日常生活に根ざした文化。このような日本文化の多様性、根底に流れる感受性や美意識は、現代の排他的で混迷度を深めている国際社会が抱える問題解決の糸口になるかもしれません。」「2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、日本の地方の魅力もアピールし、訪日観光の促進や和食・日本酒、日本茶等、日本産品の海外展開に貢献したいと考えています。また、デザインやファッション、建築、テクノロジーなどの分野における創造力、むだを省いた「引き算」の美学なども世界を魅了する日本の文化といえるでしょう。」と増田事務局長は語る。日本の美意識について、フランス人の視点からは、例えば、前述のフランス人美術史家ソフィー・リチャードは、「私が日本に恋をしたのは子どものときです。挿絵つきの本を飽かずに眺めていたものでした。その後も、井上靖や川端康成の小説を読み、熊井啓や黒澤明の映画を観るたびに、心は憧れの国へ飛んでいきました。何よりもわたしを魅了してやまなかったのは伝統的な美意識でした。…全てに美があふれていて、それまでわたしが知っていたものとは大きく違っていたのです。同時に、わたし自身の国の文化を神聖な気持ちで見つめ直し、あらためて考える機会に「ジャポニスム2018」現地マップ42 ファイナンス 2018 Oct.SPOT

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