ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
35/92

5日仏修好通商条約に付された貿易章程の内容4(10)で見た通り、日仏条約第9条は、貿易章程は日仏条約の不可欠な一部をなすとして、日仏両国は貿易章程についても履行義務を負うことを定めている。この貿易章程は、仏文では貿易規則、カタカナ文では交易規則、漢字かな混じり文では税則との名称が付され、船の出入港時の手続などの税関規則や(協定)関税率について規定している。なお、2(6)で述べた通り、1858年10月1日の条約交渉会議第4回協議において、貿易章程については、フランス側の「日英条約の貿易章程の和文を文字通りに採用」するという提案を日本側が受け入れた経緯があり、日仏条約の貿易章程(漢字かな混じり文)は、国名や罰金額の通貨単位を除き、日英条約の貿易章程(漢字かな混じり文)とほぼ同一の文言となっており、条数構成も同じである。なお、日米・日露・日蘭の各条約の貿易章程も条数構成は同じであるため、以下、日仏条約の貿易章程の各規定に他の4カ国の条約のどの規定が対応するかの説明は割愛する。(1)表題及び第1則【仏文(現代語仮訳)】貿易規則第1則日本のフランス貿易に開かれた港の一にフランス船舶が到着してから48時間以内に、当該船舶の船長は、フランス領事にすべての船舶書類、船荷証券などを預けたことを証明する当該領事からの受取証を日本の税関に提出するものとし、その上で、船長は、税関に対し、当該船舶の名称、及び出港した港の名称、そのトン数、その船長の名、乗船している場合は旅客の名及びその乗組員を構成する者の数を知らせる書面による申告を提出しつつ、当該船舶の入港を通知するものとする。当該申告は、船長により真正であることを証され、かつ、署名されるものとする。船長は、同時に、その積荷の目録を、当該積荷を構成する荷物の数*9及び記号、船荷証券において詳述されているとおりの荷物の内容を示し、当該荷物の宛名人の名を伴った上で、提出するものとする。当該目録には、船舶の備蓄品の一覧を添付するものとする。船長は、当該目録は、すべての船荷及び船舶備蓄品の正確な記述を含むことを証し、かつ、自らの名を署名するものとする。目録において誤りがあったことを認識したときは、(日曜日を除き)24時間以内に、いかなる罰金をも支払わされることなく修正を行うことができるが、当該期間を経過した後に、目録において変更又は遅延申告がなされた場合には、違反者に対して81フランの罰金を科する。目録において届け出られなかったすべての商品は、その陸揚げの際、二倍の税を支払うものとする。フランス商船の船長であって日本税関に対してこの規則の定める時間内にその船舶の入港の通知を怠ったものは、行うべき申告について生じた遅延一日ごとに324フランの罰金を支払うものとする。*9) 日英条約貿易章程の英文はthe marks and numbers of the packages (荷物の記号及び番号)、日英条約貿易章程及び日仏条約貿易章程のいずれの蘭文もde merken en nommers (現在のオランダ語ではnummers) der pakken(荷物の記号及び番号)、日英条約貿易章程及び日仏条約貿易章程のいずれの和文も「記号及び番付」と規定している。一方で、日仏条約貿易章程の仏文はle nombre et la marque des colis(荷物の数及び記号)と規定し、「荷物の番号」ではなく「荷物の数」となってしまっている。この食い違いが生じた原因は、フランス側が、日英条約の貿易章程を日仏条約の貿易章程に訳した際「番号」と「数」のいずれの意味も有する英語のnumberをフランス語のnuméro(番号)でなくnombre(数)に訳してしまったことにあるのではないかと思われる。なお、この条以降も、同様の食い違いが見られる。仏文(左)と蘭文(右)による日仏修好通商条約本文の最終頁 ファイナンス 2018 Oct.31日仏修好通商条約、その内容とフランス側文献から見た交渉経過(5) SPOT

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る