ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
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自動的情報交換のための権限ある当局による多国間合意に署名しています。また、今年、個別的情報交換の基準を満たしているかどうかのOECDでのピアレビューで、基準を満たしているとの格付を得ています。3モナコの財政最近のモナコの財政状況を見てみると、金融危機以降2009年から2011年まで赤字でしたが、2012年以降黒字に転じています。例えば、モナコ財政の推移(億ユーロ)5678910111213200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017歳出(実線)歳入(塗りつぶし)○2016年は歳入が12億5,120万ユーロ、歳出が12億1,530万ユーロで3,590万ユーロの黒字(対GDP比0.6%の黒字)○2017年は歳入が12億2,560万ユーロ、歳出が11億8,900万ユーロで3,660万ユーロの黒字(GDP未公表)となっています。このうち、歳入面を見ると、2で見たようにフランスと同じ税率20%の付加価値税(消費税)を入れているので、実は、モナコの歳入の半分は消費税で占められており、モナコの財政は消費税で支えられていると言っても過言ではありません。一方で、カジノ・高級ホテル等を経営するSBM社(国が資本の約6割を保有)の業績は芳しくなく最近は赤字経営となっており、モナコがカジノ収入で国家財政を支えているというイメージは全くの誤りです。歳出面に目を転じると、歳出の3分の1程度が学校・道路・幼稚園・トンネルなどに使われる設備投資支出となっています。確かに、フランスからモナコに車で入ると、(トンネルの暗いフランスではあり得ない)照明の明るいトンネルがいきなり出現し、道も良くなるなどインフラに大きな投資を行っていることが実感できます。ただ、それでも大きな道を通すことはできず、慢性的な渋滞の解消にはほど遠いのですが…。このほか、補助金など間接的な政策経費に国の歳出の4分の1弱、行政府の運営に直接充てられる事務費に4分の1弱が充てられています。なお、財政余剰のほか、国有財産譲渡益、国有財産評価増等を積み立てた「憲法により設立された準備基金(FRC)」が存在し、その残高は2017年で51億6,600万ユーロとなっています。つまり、GDPの1年弱分の基金が積み立てられている格好です。基金の内訳は、預金や有価証券などの流動性のある部分が23億1,600万ユーロ、金が1億9,900万ユーロ、不動産など流動性のない部分が26億5,100万ユーロとなっています。4終わりにモナコというと、F1グランプリ、カジノやタックスヘイブンのイメージでとらえられがちですが、税財政を見ると、実は、カジノは全く貢献しておらず、消費税によって安定的な歳入を確保し黒字財政を維持している、というのは私にとっても驚きでした。また、国際租税の分野では透明性を高める努力をし、マイナスイメージを払しょくしてきています。さらに、今後、環境や医療、イノベーションの分野でも力を入れていこうとしているとのことです。南仏の一角に位置する小さな独立国ではありますが、これからは、観光・娯楽以外の面からもモナコを見ていくと面白いのではないでしょうか。モナコの歳出の内訳(2017年)(億ユーロ)設備投資3.9設備投資3.9補助金等2.7補助金等2.7事務費2.7事務費2.7共通経費1.7共通経費1.7その他0.9その他0.9モナコの歳入の内訳(2017年)(億ユーロ)付加価値税5.9相続税・登録税等1.7国の不動産収入1.2法人税1.3公営企業収入0.6その他1.6(注)文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり、筆者の属する組織の見解ではありません。 ファイナンス 2018 Oct.17知っていますか? モナコの税財政SPOT

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