ファイナンス 2018年10月号 Vol.54 No.7
17/92

財務省 関税局 業務課 知的財産調査室 上席調査官 成田 美咲1財務省・税関における知的財産侵害物品の取締り我が国は、内閣に設置された知的財産戦略本部を中心に、政府一体となって知的財産の創造・保護・活用を進めている。税関を所掌する財務省では、偽ブランド品などの知的財産侵害物品の水際取締りの強化に積極的に取り組み、知的財産の保護の一翼を担っており、平成30年6月12日に知的財産戦略本部において決定された「知的財産推進計画2018」では、財務省関連の重点事項として模倣品・海賊版対策が記載されている。ここでは、税関における知的財産侵害物品に係る(1)水際取締りの制度概要、(2)近年の輸入差止状況、(3)最近の取組みについて紹介したい。2税関における知的財産侵害物品に係る水際取締制度の概要(1)取締対象税関では水際において円滑な国際貿易、国際物流を確保しつつ、関税等の適正な徴収を行うとともに、社会・経済にとって有害な物品の輸出入を規制している。関税法では、輸入してはならない貨物は第69条の11第1項に規定されており、麻薬、覚醒剤、拳銃等のいわゆる「社会悪物品」と並んで知的財産侵害物品、すなわち特許権、商標権、著作権等の知的財産権を侵害する物品と不正競争防止法第2条第1項に規定される不正競争行為を組成する物品の一部についても輸入してはならない貨物とされている。我が国においては、商標権、著作権、特許権、意匠権といった重要な知的財産権を侵害する輸入品を、明治時代から税関で規制してきた。その後、知的財産に関係する各種の法律が整備されるに伴って、その法律の内容を受ける形で様々な権利が取締対象に追加されてきた。平成18年からは輸出貨物、平成20年からは通過貨物についても税関での規制対象とされている。平成28年6月からは営業秘密侵害品についても税関での規制の対象とされた。(2)認定手続と差止申立て輸入されようとする貨物が水際取締対象である知的財産侵害物品に該当すると思料される場合には、税関長により該当するかどうか認定するための手続(認定手続)が執られ、特許権者等の権利者及び輸入者の双方が証拠の提出や意見を述べることができる(関税法第69条の12)。税関長は、この認定手続を経た後でなければ、没収・廃棄等の措置をとることができない(同条第4項)。知的財産侵害物品の水際取締りには、税関の職権による取締りと、権利者からの差止申立てによる取締りとがある。差止申立てとは、特許権者等の権利者(回路配置利用権者を除く)が、自己の権利を侵害する貨物が輸入されるおそれがある場合に、侵害の事実を疎明するために必要な証拠等を提出し、当該貨物について認定手続を執るべきことを税関長に対し申し立てることができるという制度である(関税法第69条の13)。現在、貿易取引される貨物の種類も物流の形態も多様化し、侵害の手口も巧妙になってきているため、税関職員が自己の知識や経験だけで知的財産侵害のおそれがあるかどうかを判断することには限界がある。従って、侵害物品の発見のために、権利者から差止申立てを通じて情報を提供していただき、その情報に基づき認定手続を執ることが多くなっている。3近年の輸入差止めの状況について平成29年の輸入差止件数は、30,627件で、3年振りに3万件を超え、過去2番目の高水準であった。また、輸入差止点数は、506,750点であった(注1)。これ税関における知的財産侵害物品の水際取締りについて ファイナンス 2018 Oct.13SPOT

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る