ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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私の週末料理日記その258月△日土曜日新々「危険な暑さ」が続いた後は台風、そしてまた「危険な暑さ」だ。日本の気候はどうなってしまったのだろう。午前中に、近所にちょっと出かけたら、息をするのも苦しいような暑さだ。暑熱に重さというか圧力を感じる。熱波の重みにふらふらになって帰宅。涼を求めてそのままプールに出かけたら、少々頭痛がする。プールで体を冷やしたつもりが、水分と塩分の補給が不十分だったために、軽い脱水症状かナトリウム不足になったらしい。這う這うの体で帰宅して、塩を嘗なめ梅干しをしゃぶり氷水を立て続けに飲んでソファーに倒れこむ。小一時間寝たら、ようやく元気になった。体調が戻ると、現金なもので腹が減る。家の者は、私が寝ている間に、昼食を済ませて外出したようだ。炊飯器にご飯はないが、麺類は乾麺の蕎麦、そうめんに加えて、冷蔵庫に中華麺と焼きそば用の蒸し麺がある。そうめんではあっさりしすぎて、体力回復には不向きだろう。夏だから焼きそばかな。ただ残念なことにキャベツももやしもないので、屋台風のソース焼きそばは作れない。となると餡かけか。冷凍庫にシーフードミックスがあるので、海鮮餡かけにしようかと思ったが、豚小間の使い残しも発見。両方使ってカレー味の餡かけにしよう。カレー粉のスパイスの成分は、猛暑で弱った体によさそうだ。カレー粉の黄色の主成分であるターメリック(ウコン)は肝機能を活性化し、抗酸化作用にも優れるといわれている。辛みの素の唐辛子に含まれているカプサイシンは、脂肪の燃焼を促進し食欲を増進するらしい。香りをつけるコリアンダーは消化を促進し、クミンには加えて抗酸化作用もあり、オールスパイスも消化促進や抗菌の作用に優れるという。ジンジャー(生姜)は免疫力を向上させるとのことだから、カレー粉にも含まれているが、加えておろしようがも使うことにしよう。中華スープの素とオイスターソースを効かせたカレー味餡かけ焼きそば完成。いと美味し。蒸し麺一つでは足りず、結局もう一玉追加で焼いて食べてしまった。猛暑で弱った体力の回復のためとはいえ、カレー餡をたっぷりとかけた焼きそば2杯は明らかにオーバーカロリーだ。ジムに行くか、もう一度プールに行くべきだが、「危険な暑さ」を考慮し、運動は次の機会に譲ることにして、とりあえずは体力の温存策を取ることに。再度ソファーに寝転び、カレーに傾いた我が勢の赴くところ「カレーライスの誕生」(小菅桂子著、講談社)を読む。同書によれば、日本人がカレーに接したのは幕末維新前後である。(以下同書による。)万延元年(1860年)、福沢諭吉は「増訂華英通語」という中国語の英語の辞書に手を加えて英語の発音をカタカナで付記したものを出版した。その中でCurryの発音は「コルリ」と付されている。勿論、著書の言うとおり、この時点で福沢がカレーとはいかなるものか知っていたか明らかではない。会津出身の山川健次郎(後の東大総長)は、明治3年国費留学生として渡米するが、その船の中でカレーに出会っている。洋食のバターの匂いに閉口して食事をとらずにいた健次郎少年は、心配した船医に食事をとるよう勧められ、米飯がついているカレーを選んだが、カレーがどうしても食べられないので、杏子の砂糖漬けをもらってそれをおかずに米飯だけ食べて飢えをしのいだという。岩倉使節団は、明治4年、セイロン島でカレーに出会っている。この時の旅行記「米欧回覧実記」には、同島は「西洋『ライスカレイ』ノ料理法ノ因テハシマ ファイナンス 2018 Sep.79連 載 ■ 私の週末料理日記

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