ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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コラム 海外経済の潮流114大臣官房総合政策課 海外経済調査係長 赤嶺 彰一米国雇用統計と最近のトレンド本稿では、米国において、最も重要な経済指標の1つと考えられる雇用統計について概要を説明した後、普段あまり注目されないデータも用いて現在の米国の労働市場を俯瞰してみたい。米国の労働省労働統計局が公表*1する雇用統計は、家計調査と事業所調査からなる包括的な労働統計である。【図表1】。家計調査は、毎月12日を含む週を調査期間として、約6万世帯の生産年齢人口(16歳以上)*2を対象に調査を行い、失業率・労働参加率等のデータを提供する。また、これらは人種別・教育水準別に詳細なデータが提供されている。一方、事業所調査は、農業を除く約65万1000の事業所を対象に、毎月12日を含む給与支払い期間(週とは限らない)を調査期間として、非農業部門雇用者の増減数・賃金等のデータを提供する。雇用統計では、失業率と非農業部門雇用者の増減数が注目されるが、失業率は家計調査、非農業部門雇用者の増減数は事業所調査から作成されている。家計調査では自営業者と農業従事者が含まれる一方、事業所調査ではそれらが含まれない【図表2】。なお、家計調査における就業者の中から自営業者と農業従事者を除いた雇用者を抽出することもできる。具体的に2018年7月の雇用統計(2018年8月3日公表)で示*1) 雇用統計の公表は基本的に12日を含む週を基準として、その週の3週間後の金曜日となる。よって、厳密にいえば公表日が毎月の最初の金曜日であるという解説は誤り。*2) 生産年齢人口(日本):15~64歳 生産年齢人口(米国):16歳以上(上限なし)せば、家計調査における就業者の中の雇用者の数は1億4,445万人であるのに対し、事業所調査における非農業部門雇用者は1億4,913万人となっている【図表3】。ほぼ同水準となっているものの、完全に一致していないのは、調査におけるサンプルの違いや複数の仕事を持っている個人の数え方の違い等に起因するものと考えられる【図表2】。雇用統計をもとに米国の労働市場を俯瞰してみると、非農業部門雇用者は増加しており、失業率は低下傾向にあるなど引き締まった労働市場が確認できる【図表4】が、ここでは人種別の失業率・労働参加率、教育水準別の失業率について、金融危機前と足もとの水準を比較してみる。人種別の失業率については、白人・ヒスパニック・黒人の全てにおいて、金融危機前の水準を下回っている。また、黒人と白人の失業率に注目すると、スプレッドが縮んできていることが分かる【図表5】【図表6】。【図表1】雇用統計概観雇用統計(The Employment Situation)(A)家計調査(Household Survey)失業率・労働参加率等(B)事業所調査(Establishment Survey)非農業部門雇用者数増減等【図表2】家計調査と事業所調査の相違家計調査(Household survey)事業所調査(Establishment survey)農業従事者を含むか○×自営業者を含むか○×無給休暇中の労働者を含むか○×16歳未満の労働者を含むか×○1人が複数の仕事を持っている場合1人としてカウントそれぞれを1人としてカウント(複数人としてカウント)(出所)米労働省より筆者作成76 ファイナンス 2018 Sep.連 載 ■ 海外経済の潮流

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