ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
70/92

関する理論は3節にて詳細を述べたい。上述のネットワーク型直接投資が拡大した結果、現在日本企業の生産工程は東アジアを中心に世界各地へ拡大し、各生産工程は国境を越えて貿易を通じて繋がるようになった。このような形態を取るサプライチェーンを国際生産ネットワークと呼ぶ。ネットワーク型直接投資は、直接投資と貿易とが複雑に結びつき、投資国・投資受入国に加えて第3国も含めた関係性の中でサプライチェーンを構築する点で、伝統的な直接投資とは異なる側面を有していると言える。2.2 国際生産ネットワークの形成ここで、上述の国際生産ネットワークを可視的に捉えることを試みたい。木村・安藤(2016)は、東アジアの国際生産ネットワークにおいて核となっている機械産業に属する部品・中間財貿易のデータを用いて、国際生産ネットワークの形成を確認するアプローチを取っている。木村・安藤(2016)によると、東アジアにおいて1970年の段階では機械類の完成品輸出を大量に行っていたのは日本のみであり、他の東アジア諸国は主に完成品中心の輸入偏重型の傾向を示していた。しかし、1980年代に入るとシンガポール、香港、韓国などからも完成品を含む機械類輸出が増加し始め、1990年代にはマレーシア、シンガポール、香港、韓国、タイの機械部品輸出率も上昇した。そして2000年代以降は上記の国々に加えて中国、フィリピンでも機械部品を輸出・輸入の双方を行うようになったことが確認できる。この機械部品輸出の増加と輸出入双方の拡大が、生産ネットワーク拡大の証左であることが指摘されている。図2は木村・安藤(2016)を参考に、2010年における東アジア各国の対世界機械貿易の総貿易に占める割合を示している。また、各国の機械貿易の輸出入における完成品と部品の比率も表している。図2から、2010年代には、東アジアにおけるほとんどの国の機械貿易に占める部品の割合が大きく、機械部品の輸出・輸入の双方が行われていることを確認できる。このように、東アジア諸国は1980年代以降、一方向かつ完成品の貿易を中心とする関係性から、双方向の部品・中間財貿易を特徴とする関係性へと移行していったことが木村・安藤(2016)では指摘されている。近年、Kimura and Ando(2005)、Baldwin and Okubo(2014)をはじめフラグメンテーションや生産ネットワークに関する実証分析は盛んになってきている。これらの研究からも、アジアの貿易で大きな位置を占めているのは中間財・部品貿易であり、特に機械産業でその傾向が強いということが確認されており、図2で示した傾向と整合的であると言える。従来は、途上国‐先進国間の貿易は一次産品と工業製品といった産業間貿易、他方先進国同士の貿易は産業内貿易において観察されるという前提で多くの実証分析が行われてきた。一方で、東アジアでは途上国‐先進国図2 東アジア各国の対世界機械貿易の総貿易に占める割合(2010年)00.10.20.30.40.50.60.7日本韓国香港シンガポールインドネシアタイ中国マレーシアフィリピン輸出:完成品輸入:完成品輸出:部品輸入:部品(注)HS分類に基づく。機械類の定義および機械部品の定義は木村・安藤(2016)を参照されたい。(出所)木村・安藤(2016)を参考に、UN Comtradeより筆者作成。66 ファイナンス 2018 Sep.連 載 ■ 日本経済を考える

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る