ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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頃までは40兆円弱で推移していたものの、2005年以降徐々に増加し、そして2017年末には180兆円弱まで到達したことが確認できる。このように日本の直接投資が拡大した理由は様々であるが、主な要因としては円高や貿易障壁の存在、政府による開発援助などが挙げられる*3。そもそも企業が海外に生産拠点を移転するのはなぜだろうか。まずは企業が海外直接投資を行う動機について理論的背景を踏まえつつ確認しよう。伝統的な海外直接投資の議論においては、直接投資をその目的に注目して「水平的」直接投資と「垂直的」直接投資の2つに類型化することが多かった*4。水平的直接投資は、海外に国内とほぼ同様の生産・販売工程を複製した拠点を設けるために行う海外直接投資を指す。これは先進国向けの直接投資によく見られ、貿易障壁や輸送費を考慮し、輸出を選択するよりメリットがある場合に行われることが多い。すなわち、貿易コストや輸送費の節約を目的とする直接投資と言えよう。一方垂直的直接投資は、生産段階を分割し、労働や資本のコストなどの格差をうまく利用して生産コストを抑制すべく国際間分業を行う直接投資を指す。労働集約的な生産工程を賃金の安い途上国に移転する際に行われることが多い。以上のように水平的・垂直的ともに、主*3) 日本の直接投資の増加要因については清田(2015)を参照されたい。*4) 水平的直接投資・垂直的直接投資については大久保(2016)、松浦(2015)、清田(2014)を参照されたい。*5) このようなコストはサービス・リンク・コストと呼ばれている。木村・安藤(2016)は、サービス・リンク・コストには「部品・中間財等の輸送費、電気通信費、各種コーディネーション・コストなどが含まれる」と述べている。詳細については3節にて説明する。にコスト削減という観点から、輸出ではなく直接投資という企業行動を選択したことがわかる。上述の通り、伝統的な分類は、理論的には本国と進出先の2国モデルを前提として考えられてきた。しかしながら、実際の企業行動を想定したとき、必ずしも上述の理論で説明できるわけではないということが近年の研究で明らかになってきた。後述するが、近年の製造業に関する貿易は完成品より部品・中間財が品目の中心となりつつある。松浦(2015)によると、特に、「現地・日本・第三国から中間財を調達し、最終財は現地・日本・第三国に販売する」、というタイプの貿易が増加している。すなわち、従来の自国と外国の2国に加え、第3国からの調達・輸出という選択肢を含めた関係性が構築されるようになったのである。このような貿易を行うための海外拠点を設ける直接投資をBaldwin and Okubo(2014)はネットワーク型直接投資(Networked FDI)と呼んだ。彼らはこのネットワーク型直接投資が日本企業を中心に拡大していることを指摘している。拡大している理由については、清田(2015)は、輸送技術や情報通信技術の発展が、1990年代後半以降各生産工程間をつなぐ際に発生するコスト*5を低下させた結果、生産工程の分散化が進んだ点を挙げている。この生産工程の分散化に図1 海外直接投資残高推移020,00040,00060,00080,000100,000120,000140,000160,000180,000200,000(年末)2017201620152014201320122011201020092008200720062005200420032002200120001999199819971996単位:10億円(出所)財務省「本邦対外資産負債残高」 ファイナンス 2018 Sep.65シリーズ 日本経済を考える 81連 載 ■ 日本経済を考える

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