ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html国際生産ネットワークに関する 学術研究の進展財務総合政策研究所総務研究部 研究員小見山 拓也*1シリーズ日本経済を考える811.はじめに国際的な生産工程の分散は、我が国を中心とする東アジアにおいて広く進展している。機械産業をはじめとする多くの日系多国籍企業は、東アジア諸国に製造拠点を設け、部品・完成品の貿易を活発に行っている。すなわち、完成品の輸出・輸入に止まらず、さまざまな国で製造した機械部品を別の国へ輸出して完成品を製造する、といった複数の国をまたぐ生産工程が広く利用されているのである。このような国境を越えた生産工程の形態は国際生産ネットワークと呼ばれている。日本企業による直接投資*2は2000年代以降急速に拡大しているが、その一部は国際生産ネットワークの拡大に伴うものだと考えられる。国境を越えた生産工程の分業化・ネットワーク化をもたらす直接投資が拡大したのは、輸送技術や情報通信技術の発展が要因である。このような直接投資はネットワーク型直接投資と呼ばれ、主に東アジアにおける国際生産ネットワークの構築に大きな貢献を果たしている。国際生産ネットワークの拡大に伴い、経済学的な視点からの分析が数多くなされてきた。現在進行形で発展しつつある国際生産ネットワークの理論・実証分析について、最新の論点を踏まえながらサーベイすることには大きな価値があると考える。*1) 本稿の執筆にあたって、木村遥介研究官(財務総合政策研究所)に御指導いただいた。また、松浦寿幸准教授(慶應義塾大学産業研究所)からも有益なコメントをいただいた。ここに記して深く感謝の意を表したい。なお、本稿の内容や意見はすべて筆者の個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではなく、本稿における誤りはすべて筆者個人に帰するものである。*2) 日本から海外へ行う直接投資は、「海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)」あるいは「対外直接投資」とも呼ばれる。また、直接投資を行う企業は、複数の国にわたって活動することから「多国籍企業」と呼ばれる。詳細は清田(2015)を参照されたい。本稿の目的は、直接投資に関する理論的概念を整理した上で、主に東アジアにおいて構築されている国際生産ネットワークにかかる諸論点について近年の先行研究を交えながら議論することである。特に、生産工程のネットワーク化にかかる不確実性とそれに対するネットワークの安定性・頑健性という観点に注目して議論を展開する。以降の節は、次のように構成されている。2節は、海外直接投資概念に関する理論的考察とネットワーク型直接投資の拡大についてデータを概観しながら確認する。3節では、国際生産ネットワークの構築を解明するために発展した「フラグメンテーション理論」の概要を説明する。続く4節では、生産工程のネットワーク化が直面するリスクについて問題提起を行う。5節では、4節での問題提起に対応する近年の先行研究を紹介し、最終節にて結びとしたい。2. 直接投資と国際生産ネットワーク2.1 直接投資の分類本節では、日本の直接投資の分類と、主に東アジアにおける国際生産ネットワークの形成過程についてデータを通じて確認する。はじめに我が国の直接投資の動向を確認しよう。図1は日本の直接投資残高の推移を示している。図からは、直接投資残高は2004年64 ファイナンス 2018 Sep.連 載 ■ 日本経済を考える

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