ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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すること等により、一般の金融機関が行う金融及び民間の投資を補完し、又は奨励する」ものと、「沖縄の国民大衆、住宅を必要とする者、農林漁業者、中小企業者、病院その他の医療施設を開設する者、生活衛生関係の営業者等に対する資金で、一般の金融機関が供給することを困難とするものを供給」するもの、この大きく2つのことにより、「沖縄における経済の振興及び社会の開発に資することを目的とする」というものだ。(ア) 「沖縄における経済の振興及び社会の開発に資することを目的とする」沖縄の振興開発については、沖縄振興特別措置法に基づく10年計画の振興計画*3がある。この特別措置法の中で定められている産業振興のための財政上、税制上、金融上の措置等のうちの、金融上の措置を沖縄公庫の設置・活動で裏付けるものと解される。(イ) 「沖縄における産業の開発を促進するため、長期資金を供給すること等により、一般の金融機関が行う金融及び民間の投資を補完し、又は奨励する」この部分は、沖縄公庫が行う産業開発資金と出資に該当する。平成17年(2005年)に行われた、いわゆる政策金融改革に基づき、具体的な業務範囲を定める公庫法第19条が改正され、「沖縄の置かれた特殊な諸事情に鑑み特に必要があると認められるものとして主務大臣が定めるものに限る」との文言が追加され、産業開発資金や出資の対象範囲には法令上の限定が加えられている。また、「補完」とは、足りないところを補って完全にすることであり、「奨励」とはあることをするよう、すすめはげますこととされる*4。従って、民間との協調融資や投資が行われるよう配慮することが求められているといえよう。*3) 「沖縄における経済の振興及び社会の開発」は結局「沖縄振興計画」に体現される。なお、「社会の開発」という文言は、沖縄振興分野以外では、独立行政法人国際協力機構法など政府開発援助分野において使用されている例がある。法令の文言からも連想されるが、沖縄振興においても、開発経済学の知見がより導入されることが望ましいように感じる。*4) 昭和47年(1972年)4月14日衆議院大蔵委員会の質疑で、堀昌雄委員から、「一般の金融機関が行なう金融を補完し」ということは、一般的な政府関係金融機関の原則であるところ、「又は奨励するとともに」という文言を入れた趣旨について問われた際に、山中貞則国務大臣(総理府総務長官)は、「・・本土の金融機関においては、政府が政策金融をやりますと、当然それに対する協調融資というのがなじんでいますけれども、沖縄においては、起債市場もありませんし、そういうような習慣がなじんでいないことから、これは書かなくてもいいのですけれども、やはり沖縄の市中金融機関というものは、こういう政府の政策金融が行われたならば、それに対して協調融資その他のこれに対する援助というようなものをしてほしいという意味で、それを奨励する、こういうつもりでございます。」と答弁している。(参照:衆議院大蔵委員会議事録昭和47年4月14日21ページ)(ウ) 「沖縄の国民大衆、住宅を必要とする者、農林漁業者、中小企業者、病院その他の医療施設を開設する者、生活衛生関係の営業者等に対する資金で、一般の金融機関が供給することを困難とするものを供給」最後の「一般の金融機関が供給することを困難とするもの」であるが、沖縄公庫の融通すべき資金の性格を規定したものと解される。一般の金融機関の行う金融を補完するものであることを明らかしている。上記に掲げられている事業者は、資本市場からの資金調達が困難であるなど、一般的に大企業と比較して資金調達の手段が限られており、また、民間金融機関の貸し出しも短期資金が中心であることから、これらの事業者に対する長期資金を供給するために、長期・固定・低利の資金を安定的に供給することにより、民間金融を量的・質的に補完するものである。ただし、金融技術の進展などを踏まえて、沖縄公庫には、民業補完の立場にたって、不断の業務の見直しが要請されていると考えられる。(2)主務大臣内閣総理大臣、財務大臣である。(3)資本金前述のとおり、全額政府出資で、平成30年(2018年)3月31日現在、778億3714万円余である。(4)役職員平成30年度(2018年度)の予算定員は220名である。うち、役員は6名(理事長、副理事長、理事3名以内、監事)である。理事長は、川上好久元沖縄県副知事である。(5)業務範囲沖縄公庫は、前述の公庫法第1条に規定する目的を ファイナンス 2018 Sep.53沖縄振興開発金融公庫による沖縄振興の取り組みについて SPOT

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