ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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渡部 晶▪はじめに沖縄振興開発金融公庫(以下「沖縄公庫」という。)は、沖縄の本土復帰に伴い、本土の諸制度への円滑な移行と経済社会の格差是正を目的とした沖縄の振興開発をすすめるための、いわゆる「沖縄開発三法」*1の1つである、沖縄振興開発金融公庫法(昭和47年法律第31号。以下「公庫法」という。)に基づき、政府の全額出資により設立された政府系金融機関である。沖縄における政策金融を一元的・総合的に行うために*2、本土復帰と同日の昭和47年(1972年)5月15日に設立された。平成30年(2018年)9月現在でいえば、創立47年目に突入している。「子曰く、吾十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る・・」(『論語・為政』)でいえば、不惑を越えて、天命を知る少し手前ということになる。沖縄公庫は、沖縄振興特別措置法の改正(平成24年4月1日施行)に伴う「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号)の一部改正により、沖縄振興計画に係る平成24年度(2012年度)を初年度とする10箇年の期間が経過した後において、株式会社日本政策金融公庫と統合するものとするとされ、当面は現在の体制で存続することになった。これは、沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画などの沖縄振興策と一体となって、引き続き沖縄振興に寄与していくことが求められたことによるものである。現在進行中の沖縄振興計画は、本土復帰以来5回目のものであるが、その計画期間もあと3年半ほどと*1) 他の2つの法律は、沖縄振興開発特別措置法(昭和46年法律第131号)、沖縄開発庁設置法(昭和47年法律第31号)である。*2) 「沖縄振興開発金融公庫五年史」(昭和53年(1978年)5月刊行)に初代理事長の佐竹浩氏(当時国民金融公庫総裁、元大蔵省銀行局長・理財局長)が、「回想〈創業不易〉」と題する論考を冒頭近くに寄稿している。そこでは、沖縄公庫の特色として、(1)沖縄県一県のために設けたものであること、(2)本土の一銀行六公庫の仕事を一元的に扱う「総合公庫」の始めての試みであること、(3)琉球政府時代からの大衆金融公庫など地元政策金融機関を承継して発足したことを挙げる。その理由について、沖縄における250年に及ぶ歴史的経緯(薩摩の圧政と搾取、明治維新後の「琉球処分」、太平洋戦争中凄惨な決戦場であったこと、戦後の異民族統治など)を抜きにしては考えられないとし、また、具体的には、「沖縄特例」を行う必要性からきている、と指摘する。なってきた。沖縄振興策全体も大きな節目(計画期間延べ50年)に差し掛かっているといえよう。沖縄の振興について、様々な議論が必要とされる時期といっても過言ではない。本稿では、沖縄公庫の概要と、沖縄経済の動向や沖縄公庫の最近の取り組みを中心に紹介したい。なお、沖縄公庫については、「五年史」、「十年史」、「二十年史」までは存在し、その後については、将来の年史作成に備えた資料の記録整理を旨として、年史の記述を省いた通期的な統計資料「最近10(十)年間の沖縄公庫の歩み」(データブック)を創立30周年、40周年の際に刊行しているので、40周年までの制度の変遷などについてはそちらをぜひご参照いただければ幸いである。1沖縄公庫の概要(1)目的沖縄公庫の目的は、公庫法第1条に規定されている。すなわち、沖縄における産業の開発を促進するため、長期資金を供給すること等により、一般の金融機関が行う金融及び民間の投資を補完し、又は奨励するとともに、沖縄の国民大衆、住宅を必要とする者、農林漁業者、中小企業者、病院その他の医療施設を開設する者、生活衛生関係の営業者等に対する資金で、一般の金融機関が供給することを困難とするものを供給し、もって沖縄における経済の振興及び社会の開発に資することを目的とする。条文の構造について簡単に触れておきたい。「沖縄における産業の開発を促進するため、長期資金を供給沖縄振興開発金融公庫による 沖縄振興の取り組みについて52 ファイナンス 2018 Sep.SPOT

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