ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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グラムの銀を持ち込めば1グラムの金と交換でき、それを外国に持ち出せば15.5~16グラムの銀と交換でき、さらにその銀を日本に持ち込めば3.3~3.4グラムの金と交換でき、それをまた外国に持ち出すという具合で、理論的には、1回の両替取引で元手を3.3~3.4倍に増やすことが可能となっていた。この結果、日本に外国の銀貨が大量に持ち込まれ、それに代わって金の小判が流出する事態となったため、1860年に天保小判の金含有量の29.3%しか含まない万延小判を発行しこれを一両とすることにした。これにより日本での金銀の交換比率が金1:銀15.8とほぼ外国の水準と同じとなったため、金の流出は止まったものの、一方で、実質的な小判(1両)の価値が大きく下がったため、国内物価が急激に上昇したとされる。なお、元々は日本でも、金銀の交換比率は国際水準に近かったとされるが、それに比して通貨の一分銀の銀含有量を少なくする(幕府の信用力で一分銀に実力以上の通用力を与える)ことで幕府は発行益を得て財政を支えていたとされる。一方で、開国に伴って生じた一連の事態は、国内財政上の要請で採用されていた通貨政策が海外に市場を開放した瞬間に、金の流出やインフレといった形で経済に混乱をもたらすことになった例とも言える。(16)第15条第15条は、フランスの商人が申告した商品の価額に日本の税関当局が疑いを抱いた場合、税関当局自身がその価額を見積って商人に提示することが出来るとの規定である。この商人が税関の見積価額を拒否する場合には、その価額に応じた関税を日本の役人(仏文では税関の上級庁)に支払わなければならない一方で、税関の見積価額を承諾する場合には、日本の税関当局がその価額で商品を買い取るべきことが規定されている。日米条約第4条、日英条約第15条、日露条約第10条、日蘭条約第3条に同様の規定がある。商人側が税関当局の見積価額を承諾した場合には税関当局が買入義務を負うため、税関当局が不当に高額な見積価額を提示することを防止する仕組みとなっている。一方、実際の価格よりは低い見積価額を税関から提示されその価額で税関当局に買い入れられたくない場合には商人はその見積価額に基づく関税を払うため、税関当局にとっては、正確な価額の見積りを行えば関税収入を最大化できる仕組みになっている。【仏文(現代語仮訳)】第15条商人によりその商品のいくつかに対して行われた評価に対し日本税関の長が満足しない場合には、この公務員は、当該商品について価格を見積もり、かつ、そのように定められた単価において当該商品を購入することを提案することができる。所有者が自らに対してなされた提案の受入れを拒むときは、当該所有者は、この見積りに応じた関税を税関の上級庁に支払わなければならない。逆に、当該提案が受け入れられたときは、提案の金額は、割引又は値引きなしで、直ちに商人に対して支払われるものとする。【カタカナ文】第十五条フランスノヒト ニツポンヘ シナモノヲ モチワタリテ ウンジヤウヲスクナク イダサンガタメニ シナモノヽ 子ダンヲ ゲンジタルセツハ ニツポンノ ヤクニン シナモノヲ アラタメテ 子ダンヲツクベシ フランスノヒト ソノ子ダンヲ シヨウチ イタスナラバ ソノ子ダンニテ ニツポンノ ヤクニン カヒトルベシ シカシ ニツポンノ ヤクニンノツケタル 子ダンニテ フランスノ アキンド シナモノヲ ニツポンノ ヤクニンヘ ウラザルセツハ ソノ ツケタル 子ダンニ ヒキアハセテ ニツポンノヤクニンヘ ウンジヤウヲ イダスベシ○ソノセツ ニツポンノ ヤクニン ソノシナモノヲ カヒトラバ ソノ子ダンヲ スコシモ ゲンズルコトナク スグニハラフベシ【漢字かな混じり文】第十五條佛蘭西人品物持渡運上を少なく拂はんか為其價を減したると察せは日本役人是を改め相當の價を付へし佛蘭西人其價にて承引せは其價を少しも減する事なく日本役所へ買入へしもし是を否む時は付たる價に従て運上を納へし(注) 文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織の見解ではありません。なお、文中の日付は旧暦は用いず、すべて太陽暦を用いています。 ファイナンス 2018 Sep.45日仏修好通商条約、その内容とフランス側文献から見た交渉経過(4) SPOT

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