ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
48/92

(15)第14条第14条は、外国貨幣の日本における取扱いを定める規定である。日米条約第5条、日英条約第10条、日露条約第13条、日蘭条約第4条に同様の規定があり、これらは、国の通貨・外国為替政策の根本を決める重要な規定であった。具体的には、○外国貨幣が日本で通用力を有し、日本での類似の貨幣との比較において(額面でなく)その重さで通用する(カタカナ文・漢字かな混じり文では金貨は金貨と、銀貨は銀貨とそれぞれ重量を比較して通用させると規定)、○日仏両国民とも日本・外国貨幣のいずれをも支払に使用できる○日本人が外国貨幣の価値を知らないためフランス人が外国貨幣を直ちに日本にて使用できないと想定されることから、開港後1年間は、日本の当局がフランス人から外国貨幣を受け取り、手数料なしで同種・同じ重量の日本貨幣に両替する○日本の銅貨以外の貨幣(金銀貨幣)及び鋳造されていない外国の金銀を外国に持ち出せる(逆にいうと、日本の銅銭と日本の鋳造されていない金銀は外国に持ち出せない)と定められている。一番の問題は、外国貨幣と日本貨幣の間で、金貨は金貨と、銀貨は銀貨と重量を比較した上で外国貨幣を通用させるとした点にあった。この規定は、日米条約交渉時にアメリカ領事のハリスに押し切られたものであるが、日本での金銀の交換比率(金1:銀4.6)*14と、外国での金銀の交換比率(金1:銀15.5~16)*15が異なっていたために、不合理な結果をもたらすこととなった。貨幣の概念を介さず単純に説明すれば、日本に4.6【仏文(現代語仮訳)】第14条全ての外国貨幣は日本において通用力を有し、類似の日本の貨幣の重量と比較した当該外国貨幣の重量の価値において通用する。フランス及び日本の臣民は、互いに行う必要のあるすべての支払において、日本又は外国の貨幣を自由に使用することができる。日本政府*13が外国貨幣の価値を正確に知るまでにいくらかの時間がかかるため、権限ある日本の当局は、フランス臣民に対し、それぞれの港の開港に続く年の間は、当該臣民が当該当局に渡した貨幣と同じ重量かつ同じ性質の日本貨幣を、交換で、新たな貨幣鋳造のための手数料を支払うことなく提供するものとする。銅貨を除くすべての種類の日本の貨幣及び鋳造されていない外国の金及び銀は、日本の外に持ち出すことができる。【カタカナ文】第十四条グワイコクノ カ子ヲ ニツボンニテモ ツウヨウ イタスベシ ソノツウヨウハ ニツポンノカ子ト グワイコクノカ子ト キンハキン ギンハギント カケアハスベシ○ ニツポンノ ヒトモフランスノヒトモ シヤウバイスルニ ニツポンノ カ子ト グワイコクノ カ子ト トリマゼ カツテニ モチウベシ○ ニツポンノヒト グワイコクノ カ子ノクラヰヲ シラザルユヱ ミナトヲヒラキタル シヨホツニ タウヨウダケ ニツポンノカ子ト グワイコクノカ子ト カケアハセテ グワイコクノカ子ヲ ヤクシヨヘ ヒキトリ ニツポンノカ子ヲ フランスノヒトヘ ワタスベシ○ニツポンノ ツウヨウノ キン ギント グワイコクノ キン ギンハ モチユクコト クルシカラズ ニツポンノ アカヽ子ゼニト ニツポンノコシラヘザル キンギンハ モチユクコトナラズ【漢字かな混じり文】第十四條外國の貨幣日本にても通用いたさすへし其通用は日本の貨幣と外國の貨幣金は金銀は銀と懸合すへし佛蘭西人日本人との商賣に日本の貨幣と外國の貨幣と取交用うへし日本人外國の貨幣に慣れされは交易の初發に當用丈は日本貨幣を外國貨幣と懸合せ役所にて佛蘭西人へ引替渡すへし日本通用金銀と外國の金銀は持行事苦しからすといへとも日本銅錢と貨幣に拵らへさる金銀は持行へからす*13) 漢字かな混じり文及びカタカナ文では、「日本政府」ではなく「日本人」となっている。日米条約や日英条約の英文も「the Japanese(日本人)」と規定しており、仏文の規定が誤っていると考えられる。*14) 当時の日本では一分銀4枚を金の小判1枚(1両)に両替することができた。天保一分銀は4枚分で金0.072g・銀34.107g・その他0.321gを含有する一方、天保小判は金6.387g・銀4.822g・その他0.042gを含有しており、その他の部分を捨象した上で両者が同じ価値だと考えると、日本における金と銀の交換比率をxとすれば、0.072*x+34.107=6.387*x+4.822を解いて、x=4.64となる。*15) 当時のアメリカでは1ドル銀貨は20枚分で銀481.140g・その他53.460gを含有する一方、20ドル金貨には金30.093g・その他3.344gを含有しており、その他の部分を捨象した上で、アメリカにおける金と銀の交換比率をyとすれば、30.093*y=481.140を解いて、y=15.99となる。また、当時のフランスでは1フラン銀貨は20枚分で銀90g・その他10gを含有する一方、20フラン金貨は金5.806g・その他0.645gを含有しており、その他の部分を捨象した上で、フランスにおける金と銀の交換比率をzとすれば、5.806*z=90を解いて、z=15.50となる。44 ファイナンス 2018 Sep.SPOT

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る