ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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第8条は、商品の輸出入及び売買に関する規定である。箱館、長崎、神奈川(横浜)など外国との貿易に開かれた港において、フランス人は輸入禁制品(例えば阿片)を除いてあらゆる商品を、日仏条約に付される関税表(貿易章程第7則)に定める関税を払った上で、フランス又は他の国から輸入し、売買し、フランス又は他の国に輸出することができると規定されている。また、武器は日本政府又は外国人にしか売ってはならず、一般の日本人には売ってはならないこと、売買や代金支払・受取時に日本の当局の介入を受けないこと、フランス人の売却する品物を日本人が売買所持することが出来ること、日本に住むフランス人が日本人を雇えることも定められている*5。なお、関税という言葉は当時まだ使われておらず、「運上」の語が用いられている。日米条約第3条及び第4条、日英条約第8条及び第14条、日露条約第9条及び第10条、日蘭条約第2条及び第3条に同様の規定がある。(10)第9条【カタカナ文】第八条フランスノヒト ニツポンノ ヒラキタル ミナト ミナトニ オイテ ジコクノ シナモノハ モチロン タコクノ シナモノニテモ アキナヒ イタスコト クルシカラズ○ シカシ ニツポンヨリ トメラレタル シナモノハ アキナヒ イタスベカラズ ニツポンノ ヒラキタル ミナトヨリ ジコク マタハ タコクヘ シナモノヲ モチユキ アキナヒ イタスコト クルシカラズ ソノセツハ サダメタルトホリニ ウンジヤウヲ イダスベシ ブキハ ニツポンノ セイフナラビニ グワイコクノ ヒトノホカハ タニアキナフベカラズ フランスノヒト ニツポンノヒトヽ ナニシナニヨラズ ウリカヒヲ イタシテ クルシカラズ ソノセツハ ニツポンノ ヤクニン タチアフコトナシ マタ ダイギンヲ ハラフセツモ ドウヤウナリ ニツポンノヒトハ ナニビトニテモ シナモノヲ フランスノヒトヽ カツテニ ウリカヒ マタハ シヨヂシテ クルシカラズ○ ニツポンニアルフランスノヒト ニツポンノヒトヲ ヤトフセツハ ニツポンノ ヤクニン サマタゲナシ【漢字かな混じり文】第八條佛蘭西人日本の開きたる港々において自國の品物は勿論他国の品物にても商賣いたす事苦しからすといへとも日本禁止の品物は商賣いたすへからす日本の開きたる港より自國又は他國へ品物を持行商賣いたす事苦しからす其節は定めたる通りに運上を出すへし武器は日本政府並外國人の外賣へからす佛蘭西人日本人と何品によらす日本役人立會*4なくして賣買苦しからす代金を拂ふ節も同様たるへし日本人は何人によらす佛蘭西人と品物賣買且所持する事苦しからす日本にある佛蘭西人日本の賎民を雇ふ事障なし*4) フランス外務省外交史料館所蔵のもう一通の漢字かな混じり文及び日本の条約集(締盟各国条約彙纂第一編297頁)では「立合」の字が使われている。*5) 仏文は、雇用した日本人を「法律が禁止しないすべての職務に用いること」ができると規定している。*6) 前文では「條約」の字が用いられているが、この第8条、第9条及び第13条では「条約」の字が用いられている。*7) 日本の条約集(締盟各国条約彙纂第一編298頁)では「充分」の字が使われている。【仏文(現代語仮訳)】第9条この条約に付される貿易の規則の各条は、不可欠な一部をなすとみなされるものとし、この条約に署名した両締約国にとっての義務にもなるものとする。日本におけるフランスの外交官は、そのために日本政府により指名されうる公務員と協力して、添付の貿易の規則の条の規定の執行に必要な規則を貿易に開かれたすべての港において定める権限を有する。【カタカナ文】第九条コノタビ サダメタル アキナヒノ ハフハ デウヤクノトホリニ マモルベシ○コノ デウヤク ナラビニ カウエキノハフヲ ジフブンニ トリオコナフタメ コマカキ オキテヲ ナスコトアラバ フランスノ ミニストルト ニツポンノ カウクワント サウダンスベシ【漢字かな混じり文】第九條此度定たる商法は条約*6の通守るへし此条約並に交易の法を十分*7に取行ふ為の規律を全備せんと要せは佛蘭西ミニストルと日本高官と議定すへし ファイナンス 2018 Sep.41日仏修好通商条約、その内容とフランス側文献から見た交渉経過(4) SPOT

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