ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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(8)第7条第7条は、日本人とフランス人の間で民事の争いが生じた場合の裁判管轄権を規定している。フランス人が日本人を訴える場合にはフランス領事に対して行うこととされているが、問題は、日本人がフランス人を訴える場合であり、仏文ではフランス領事が訴えを聞くとされる一方でカタカナ文・漢字かな混じり文、さらに蘭文でも日本の奉行所に訴えることとされ、両者が食い違っている*2。この点について、1859年9月6日に初代駐日フランス総領事として赴任したギュスタヴ・デュシェヌ=ド=ベルクールが幕府に対し申入れを行い、1859年10月17日、日仏条約第7条の文意は日英条約第6条と同じとの宣言(証書)を日仏間で合意し、日本人のフランス人に対する訴えはフランス領事が聞くことに確定させている。なお、第7条では、フランス領事が問題を解決できない場合には、日本の当局と協力して事案を審査し公正な解決をもたらすために、日本の当局に支援を仰ぐことともされている。上述のとおり、日英条約第6条に同様の規定がある。(9)第8条【仏文(現代語仮訳)】第7条ある日本人について訴えのあるすべてのフランス臣民は、フランスの領事館に赴き、その要求を述べなければならないものとする。領事は、その要求が根拠を有するものかを審査し、かつ、事案の仲裁を図るよう努めるものとする。同じく、ある日本人があるフランス臣民について訴えがある場合には、フランス領事はそれを聞き、かつ、事案の仲裁を図るよう努めるものとする。領事が物事を収めることができない困難が生じた場合には、当該領事は、当該領事において権限ある日本の当局と協力して事案を入念に審査し、かつ、当該事案に対して公正な解決をもたらすことができるようにするために、当該当局の援助を求めるものとする。【カタカナ文】第七条フランスノヒト ニツポンノヒトヘ タイシ ウツタヘヲ ナスコトアラバ フランスノ コンシユルノトコロヘユキ ソノコトヲ マフスベシ コンシユル コトノシダイヲ ギンミシテジツイニ トリハカラフベシ マタ ニツポンノヒト フランスノヒトヘタイシ ウツタヘヲ ナスコトアラバ ブギヤウシヨヘ ソノコトヲ マヲスベシ ブギヤウシヨニテ コトノ シダイヲ ギンミシテ ジツイニ トリハカラフベシ○モシ フランスノ コンシユル ソノコトヲ トリハカラヒ デキザルセツハ ニツポンノ カウクワンノ タスケヲカリ トモニ サウダンノウヘ トリハカラフベシ【漢字かな混じり文】第七條佛蘭西人日本人に對しもし訴訟の事あらは佛蘭西コンシユルへ其事を告コンシユル事の次第を吟味し実意に取計らふへし又日本人佛蘭西人に對し訴訟あらは奉行所へ其事を告奉行所にて事の次第を吟味し実意に取計らふへし若佛蘭西コンシユル取計兼る節は日本高官の助をかり相談の上取計らふへし*2) 仏側(メルメ=カション神父)が交渉時に仏文の条文案をカタカナ文に翻訳したときに誤り、それが漢字かな混じり文作成、さらには森山栄之助による蘭文翻訳にそのまま反映されてしまったとみるのが自然であろう。*3) 普通に訳せば「日本人雇用者」。仏文上「日本の公務員」と規定すべきだったと思われる。蘭文でもJapanische Ambtenaren(日本の公務員)と規定。【仏文(現代語仮訳)】第8条貿易に開かれたすべての港において、フランス臣民は、輸入禁制品ではない全ての種類の商品について、この条約に付される関税表に規定される関税を支払いつつ、その他の負担金を負担する必要なしに、自国又は外国の港から輸入し、売却を行い、購入を行い、かつ、そこから自国の港又は他の国の港に向けて輸出する自由を有する。日本政府及び外国人に対してしか売却してはならない戦争の武器を除き、フランス人は、自由に、日本人が売却し又は購入することになる品物を日本人から購入し又は日本人に売却することができ、かつ、当該売却若しくは当該購入に際し又はこの取引の支払い若しくは受取りを行う場合においていかなる日本職員*3の介入も受けないものとする。全ての日本人は、フランス臣民が日本人に売却するすべての品物について、購入し、売却し、保管し、かつ、使用することができる。日本に居住するフランス人がその役務のために日本人を雇い、かつ、当該日本人を法律が禁止しないすべての職務に用いることについて、日本政府はいかなる妨げも行わないものとする。40 ファイナンス 2018 Sep.SPOT

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