ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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(6)第5条第5条は、日本国内でのフランス人の間の係争はフランス側が裁き日本側の管轄権が及ばないことを定めており、領事裁判権(治外法権)の一つである。これは確かに不平等条約の要素の一つであるが、実際は、司法制度が未発達かつフランス語も普及していない日本で、フランス人の間の紛争を日本側が裁くのは困難だったと思われる。なお、仏文では、権利、所有物及び身体についての係争とされているが、カタカナ文及び漢字かな混じり文では、こうした係争の対象が書かれていない。日英条約第4条に同様の規定がある。(7)第6条第6条は、フランス人が日本人に対し犯罪行為を行った場合にはフランス領事が、日本人がフランス人に対し犯罪行為を行った場合には日本の当局が、それぞれ逮捕し、処罰することを示している。フランス人が犯罪行為の主体である場合には、第5条と同じくフランス領事が管轄権を有することから、不平等条約の要素である領事裁判権(治外法権)の一つをなしている*1。日米条約第6条、日蘭条約第5条、日露条約第14条、日英条約第5条に同様の規定があり、特に日英条約第5条はこの条と全く同じ規定ぶりである。【仏文(現代語仮訳)】第6条フランス臣民に対する犯罪行為によって咎められるべき日本人は、日本の法律に従って、権限ある日本の当局によって逮捕され処罰されるものとする。日本人又は他の国家に属する個人に対する犯罪行為によって咎められるべきフランス臣民は、フランス領事の前に召喚されフランス帝国の法律に従って処罰されるものとする。裁判は、いずれの側でも公正かつ公平に執り行われるものとする。【カタカナ文】第六条フランスノヒト ニツポンノヒトヘタイシ フラチアラバ フランスノ コンシユル ソノコトヲ ヨクタヾシテ フランスノ ケイバツニ オコナフベシ○ マタ ニツポンノヒトモ フランスノヒトヘタイシ フラチアラバ ニツポンノ カウクワン ソノコトヲ ヨクタヾシテ ニツポンノ ケイバツニ オコナフベシ ソノ ケイバツニ オコナフニモ ニツポンノヤクニンモ フランスノコンシユルモ ギヲ タヾシテ オコナフベシ【漢字かな混じり文】第六條佛蘭西人日本人に對し不埒の事あらは佛蘭西コンシユル糺明の上自國の法度を以罰すへし日本人佛蘭西人に對し不埒の事あらは日本役人糺明の上日本の法度を以罰すへし但何れも偏頗なく取行ふへし【仏文(現代語仮訳)】第5条日本皇帝陛下の領地内において、フランス人の間でその権利、その所有物又はその身体に関して起きたすべての係争については、その国に設置されるフランス当局の管轄に服するものとする。【カタカナ文】第五条ニツポンニ オイテ フランスノヒトヽ フランスノヒトヽ ロンジテ スマザルコト アラバ フランスノ ミニストル マタハ コンシユルニテ トリハカラフベシ【漢字かな混じり文】第五條日本にある佛蘭西人の間に争論起る事あらはミニストル又はコンシユル取計ふへし*1) 第6条を詳しく見ると、(1)仏文では日本人の犯罪行為の取扱いを先に、フランス人の犯罪行為の取扱いを後に規定しているところ、カタカナ文・漢字かな混じり文ではフランス人の犯罪行為の取扱いを先に、日本人の犯罪行為の取扱いを後に規定している、(2)仏文では、フランス人は、日本人だけでなく第三国の者に対する犯罪行為の場合も、フランス領事に召喚され、フランスの領事裁判権の対象となると規定しているが、カタカナ文・漢字かな混じり文においては日仏以外の第三国の者に対する犯罪行為の取扱いについて規定していない、といった差異が見られる。 ファイナンス 2018 Sep.39日仏修好通商条約、その内容とフランス側文献から見た交渉経過(4) SPOT

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