ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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在フランス日本国大使館参事官 有利 浩一郎今回は、日仏修好通商条約第4条から第15条までを、フランス外務省外交史料館所蔵の仏文(筆者による現代語仮訳)、カタカナ文、漢字かな混じり文を元に解説することとしたい(仏文原文は本文末に掲載)。4日仏修好通商条約の内容(5)第4条第4条は、日本でのフランス人のキリスト教の信仰の自由、宗教建造物建設の自由及びキリスト教に対する冒瀆的慣行(踏絵)の廃止の確認を定めている。フランスと中国の間で同じ年に結ばれた天津条約の第13条は、中国のすべての個人によるキリスト教信仰の自由を定めていたが、日仏条約では、3(9)で見たように居留外国人のみにキリスト教信仰を認めており、日本人による信仰を認めたわけではない。これはキリスト教に関する規定を日本に無理強いしないとのフランス外務省の意向が働いたためとみられる。次に居留地への教会、礼拝堂、墓地等の宗教建造物の居留地内における建設の自由であるが、仏文とカタカナ文・漢字かな混じり文を比べると、教会=ミヤ、礼拝堂=ヤシロという対応関係があると考えても、仏文に出てくる「墓地」はカタカナ文・漢字かな混じり文には登場しない。3(5)で触れたとおり、第3回協議では、フランス人墓地を日本の墓地内に設けたいと日本側が求めるも何の決定もなされなかったとされているが、その結果、日本側がカタカナ文・漢字かな混じり文において(居留地内に墓地を建設できるか不明瞭にすべく)墓地をわざと例示しなかったのか、それとも単なる翻訳漏れなのかは定かではない。これら外国人の信教の自由及び居留地内の礼拝堂等の設置の自由は、日米条約第8条、日蘭条約第7条、日露条約第7条及び第5条、日英条約第9条にも規定されている。なお、日米条約第8条及び日蘭条約は、外国人による日本の宗教の尊重も定めている。踏絵の廃止については、3(5)で触れたとおり、第3回協議において、日本側からは、踏絵の習慣は既になくなっている以上、条約において廃止を求めるのは無意味との見解が示されたため、踏絵のしきたり(仏文ではキリスト教に対する冒瀆的な慣行)はすでに廃止された旨が盛り込まれた。日米条約第8条、日露条約第7条に同様の規定がある。日仏修好通商条約、その内容と フランス側文献から見た交渉経過(4)~日仏外交・通商交渉の草創期~【仏文(現代語仮訳)】第4条日本におけるフランス臣民は、その宗教を自由に信仰する権利を有し、そのために、その住居用の土地に教会、礼拝堂、墓地などその宗教に適切な建造物を建設することができる。日本政府は、キリスト教に対する冒瀆的な慣行の実施をすでに廃止した。【カタカナ文】第四条ニツポンニアル フランスノヒト ジシンノ シユウシヲ カツテニ シンカウ イタスベシ○ ソレユエ フランスノヒト ソノスムトコロヘ ミヤ ヤシロヲ タツベシ○ ニツポンニオイテ フミヱノ シキタリハ スデニヤメタリ【漢字かな混じり文】第四條日本にある佛蘭西人自國の宗旨を勝手に信仰いたし其居留の場所へ宮社を建るも妨なし日本において踏繪の仕来は既に廢せり38 ファイナンス 2018 Sep.SPOT

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