ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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(馬場)グローバルな貿易体制の見直しの動きやブレクジットの動きがある中で、WCOとしてどのように取り組んでいこうと思われていますか。(御厨氏)グローバル化により、これまで原料から製品まで一国で作っていた生産プロセスが細分化され、より競争力を高められるところへパーツの生産やアセンブリーが移って、これまでの生産構造が変化しました。そのため国境を半製品の形で通過する貿易量が増えてきましたので、税関としてサプライチェーンの円滑化と社会悪の取締りに力を入れてきました。ただグローバル化の結果として雇用に変化が生じたときに、それまで働いていた「ヒト」はどうするのか、過渡的な再訓練や将来の雇用見通しといった面が現在問題になっているのだと思います。もちろん雇用の変化は単にグローバル化に伴う労働コストの差だけではなく、テクノロジーの進展による面が大きく、長期的には労働者はAIやロボットに置き換えられているのではないかとの懸念もあります。そうはいってもグローバル化は今後も着実に進んでいくでしょうし、どういう政策を採ろうとテクノロジーの進展や他国への波及を止めることは難しいでしょう。貿易がそうしたテクノロジーの波及を促進する側面があることも事実です。国境で連結性を担う税関としては、それらの進展に備えて合法的な貿易を推進し、国境での社会悪の取締りを行えるようなリスク管理が必要になりますので、それに対応した事前のデータ収集や管理といった広義のインフラを整えていく必要があると思います。従ってWCOのやるべきことは、日々の国境におけるモノやヒトの流れなどにより生じる様々な課題や実務上の問題について、国境の関係者、民間や公的機関も含む皆で協力して対応できるようサポートしていくことです。貿易政策への提言や寄与もこうした実施上の視点や関係者の連携といった観点からのものが中心になると思います。(馬場)今後の御厨事務総局長の三期目の仕事に繋がっていくと思いますが、新しい技術が生まれ、加速度的に進展すると、これまで技術的に障害があったことも容易に乗り越えていくことになると思いますが。(御厨氏)そうですね。テクノロジーの進展は社会の進展の大きなドライビングフォースです。最近ではビッグデータが社会の注目を浴びており、Amazon、Google、Facebookなどデータを扱うところが時価総額で上位を占めるような時代になりました。そうした動きに税関は対応しているのか、データやデジタル技術を使いこなせているのか、(輸出入貨物や旅客の)リスク分析だけでなく、もっと他の使い方ができるのではないか、など色々と考えられます。貿易円滑化やセキュリティなどに加えて、三期目は税関のテクノロジーの進展への対応がもっと重要になってくると考えています。既に民間はこうした動きに乗って、電子商取引を進めています。電子商取引は消費者の貿易サプライチェーンが提供する便益への参加を促すので、画期的な取引形態です。ただ合法的な取引は税関としても円滑化を図れますが、社会悪物品の取引に使われることは防止する必要があります。残念ながら、電子商取引が社会悪物品の取引にかなり悪用されている実態もあります。そこで今年6月のWCO総会では、税関が事前に電子データにアクセスできるようにすることを核にした、電子商取引の基準の枠組みを採択し、さらに各国で実施できるよう作業を進めることにしています。もっとも税関はデータを集めるだけでなく分析したうえで、民間にフィードバックすることも考える必要があります。民間部門から集めたデータを民間部門に返す、これが新たなビジネスチャンスを生みます。個人情報保護もカバーした新しいデータ・ガバナンスにも対応して行く必要があります。もう一つ、AIの活用が重要です。電子商取引の進写真(3) WCO総会中の次期事務総局長候補者合同レセプションでの日本のイベント(書道) ファイナンス 2018 Sep.25世界税関機構(WCO)事務総局長 御厨邦雄氏 次期事務総局長選挙を終えて SPOT

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