ファイナンス 2018年9月号 Vol.54 No.6
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との意思疎通に問題がありませんでした。事務総局次長になってからはスペイン語を勉強し始めました。50の手習いで苦しいものがありましたが、スペイン語でスピーチは出来るようになりました。英語が国際社会の共通語になればなるほど、相手に通じる言葉で通訳を介さずにコミュニケートする重要性は増して来たと思います。このような背景がありましたので、事務総局長就任と同時にそれまで温めてきた施策を次々に実施に移すことが出来ました。また事務総局長として毎年6地域で開催される地域関税局長会合には全て出席し、全ての関税局長と直接話すように心がけました。また、これまでに累積すると150か国の加盟国を訪問したことになり、税関のトップだけではなく、現場の人たちの話を聞く機会にも恵まれました。こうした地域会合や訪問国では、各国から直接ニーズを把握しきめ細かく対応して来ました。更に、国際機関トップとも連携を深め、世界的な政策課題について意見交換して、税関がどのように対応できるかを探ると共に、税関が貢献できることを訴えてきました。更には事務局の改革にも努め、健全で透明な財政運営に努めたこと、採用面ではEU中心だった職員構成を各地域に広げて多様化し、34か国だった職員出身国数を64か国まで増やしました。(馬場)対抗馬を出したEU陣営からは御厨事務総局長の実績は立派だ、ただ長過ぎるので新風を入れたいのだと聞きました。他方、御厨事務総局長のこれまでの実績を基に更にWCO改革を進めて欲しいという声を上げる国も数多くあり、そうした国々が日本の支持に回ってくれたのだと思います。2009年より事務総局長としてこれまで二期務められ、今年は10年目になります。この10年間、様々なことが起こり、税関を取り巻く環境も大きく変わったと思いますが、どのようなことを考えられ、推進されてきましたか。モットーなどあれば、ご紹介いただけますか。(御厨氏)私が力を入れたのは税関の使命の明確化です。税関が国境に戦略的に配置されていることや税関間協力の絆の強みを活かして、経済社会環境の変化に対応して、どのようにして社会に更に貢献できるのか、それをどうやって国際社会に訴えるのかを考えてきました。税関は伝統的には歳入官庁ですので、効率的で公平な税の徴収を求められています。最近話題になっている、国境を跨いだ脱税を含む不明朗な資金の流れに貿易が悪用されるようなことがあってはなりませんし、内国税当局との協力が欠かせません。一方でグローバル化に伴う貿易サプライチェーンの発展により、国境措置がビジネス環境を大きく左右することが明らかになって来ました。昨年発効したWTO貿易円滑化協定はそうした産業界の要望に対応するものです。税関は手続きの透明化、予見可能性を高めながら、コンプライアンスの高い貿易業者やその他の国境手続に関わる官庁との連携を深める必要があります。他方でグローバル化はテロ・国際犯罪組織に悪用され、貿易サプライチェーンが薬物、武器、希少動植物、知的財産侵害物品といった国民の健康や安全を害する社会悪物品の犯罪サプライチェーンになりかねません。税関は貿易相手国の税関のみならず警察等の法執行機関と組んで、国境での第一防御ラインを守らなければなりません。この数年は国連の決議でもWCOのテロ対策に言及される機会が増えてきました。こうした多様な税関の使命を一言で説明するにはどうしたら良いかなと考え、税関の国境機能に着目し写真(2) WCO総会で演説中の御厨事務総局長 ファイナンス 2018 Sep.23世界税関機構(WCO)事務総局長 御厨邦雄氏 次期事務総局長選挙を終えて SPOT

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