ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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る大変動が起こっていることと並行して、テクノロジーとか産業社会とか、そのほかの人間生活を律する分野で大きなことが起こりつつある、そういう時代になってきているのです。先日ヨーロッパで会議に参加した時、(電気自動車で有名な)Tesla欧州社の社長が、ブラッセルからパリまで、一度もハンドルを握らず、ブレーキも踏まずに帰宅した、と発表するのを聞いて、自動運転の技術がここまで進展しているのかと、大変驚きました。2018年の時価総額で見た世界の企業のランキングを見ると、アップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、マイクロソフト、アマゾン、テンセント(中国)、アリババ(中国)、フェイスブックのトップ7社の時価総額合計は日本のGDPにほぼ匹敵するのです。日本の製造業はトップ15社の時価総額を合計してもアップル社にかなわないという時代になってきているのです。2.日本の国際化のために必要なことここから、第2部「日本の国際化のために必要なこと」についてお話いたします。(1)普通の国防意識はじめは国防意識についてです。今、東アジアには兵員数でみて、世界の上位7か国のうち4つまでが集中しています。そうした中で日本を守っているのが日米安保体制です。日本の自衛隊(陸海空合計)は兵員数ではタイやミャンマーの陸軍よりも少ないのです。この話をすると皆さんびっくりします。防衛の基本は抑止です。日米関係全体が抑止なのです。例えば、数兆円規模の米第七艦隊が首都のすぐ近くの横須賀に配備されていることが「米国は日本を防衛するぞ」という強いメッセージとなって周辺諸国に伝わっているのです。これが抑止力なのです。仮に沖縄の海兵隊が、戦略的見直しの結果ではなく、騒動によって日本から「追い出される」ようなことになると、日米安保体制の抑止力に傷がつくことになります。日本と仲違いしている米国が日本を条約に則って守るだろうか、と周辺諸国が疑い始めると、その時点で日米安保体制は張子の虎となってしまうのです。周辺諸国に、日米安保体制というものは確実に発動されるのだと、一片の疑義も持たせないことが重要なのです。GDP対比の防衛費ですが、日本は世界で119位にあります。NATOのGDP対比はガイドラインで2%ですが、現状1.5%程度です。トランプ大統領が今後、日本の防衛費をGDP対比で1.2%とか1.5%に増やせ、と言ってくる可能性もあるわけです。日本は1976年に防衛費上限をGDP対比1%と決めたわけですが、もしNATO並みにGDP対比で1.5%支出していたとなると、これまで99兆円もの追加の防衛費が必要になっていたのです。1.2%の場合でも43兆円が追加で必要になっていたのです。良好な日米関係によってこうした追加費用が不要になっていたのです。(2)世界の公共財として防衛体制に制約がある中で、日本が国際公共財を負担していかなければ、世界に貢献できなくなってしまいます。世界が何千人何万人と言う単位で難民を受け入れているときに、日本が数十人しか受け入れていないのでは世界から批判を受けるのも当然です。ODAにつきましても、1997年に比べて当初予算ベースでは半分近くに減少してきており、なんとかしていただきたいところです。先日、私はアフリカでJICAの支援の実態を見てまいりましたが、人間が生活できるようなところではない場所で、日本人のJICA専門家が懸命に働いておりました。でもこの専門家も予算がないので今年で支援を終了しなければならない、とのことでした。もう少し全体の予算を増やしていただきたいと思う次第です。(3)アジア諸国との和解アジア諸国との和解を進めていくためには、かつて日本人がアジアで行ってきた戦争を我々がきちんと認識することが不可欠です。まだ中国や韓国等アジアの人々にはなかなか声が届きにくいのですが、先ずは欧米やオセアニアの人々に日本の立場に対する理解と支持を訴えていくことが大切です。一方、日本人の多くは、戦争は1941年12月8日に64 ファイナンス 2018 Aug.連 載 ■ セミナー

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