ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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ICBM開発凍結等を公表したことです。トランプとの交渉後に発表すると、米国に譲歩したことになりますが、先に公表することで、北朝鮮独自の考えとして示したのです。北朝鮮との交渉の場で、米国としては「ICBMの撤廃」を求めてくるでしょう。これは実現する可能性はあります。でも日本の立場からするとどうか。米国には届かないが、日本には届く中距離ミサイルであるノドンを撤去してもらわなければならない。200発以上配備されているノドンを全廃することは北朝鮮にとってはとても受け入れられないでしょう。では米国は「ノドン削減が受け入れられなければ交渉は決裂だ」と言うか。私は難しいと思います。ここでデカップリング(=米国に届くミサイルはなくなるが、日本に届くミサイルは残る)が生じます。同盟論からすると深刻な亀裂を生じることになります。日本人は失望する。また拉致問題についても、日本の国民が期待しているような結果が出るか。米国は、韓国系米国市民3名を連れて帰るでしょうが、これは北朝鮮にとってはなんでもないことです。先ほど申し上げたデカップリングが起こり、日本人拉致被害者の帰国が実現しない、となるとどうなるのか。日本人の間で米朝会談の結果に不満が高まると、日米関係はどうなっていくのか心配なところです。「中国に対する戦争につながるとしても、北朝鮮を攻撃すべきか」との質問に対して、70%の米国市民はイエス、共和党支持者だけに限ると80%がイエス、と回答しています。こうしたもろもろの背景を踏まえて、トランプは北朝鮮との交渉を断念することも考えられます。そうなると、武力攻撃の可能性も、また出てくる。これは最も嫌なシナリオです。オ.米国:トランプ大統領トランプを巡る米国内の状況ですが、衝動的な政策を行ってきているトランプの支持率があまり下がっていません。38%程度でしたが、少しづつ上昇すらしています。前回の大統領選において、ヒラリ-・クリントンとトランプどちらに投票したのかをカウンティー(郡)ごとに調べると、トランプに投票したのは、新聞を読まない人々が多く住む地域だということが分かります。新聞も読まないし、テレビもあまり見ない、何が起ころうとトランプを支持する人々なのです。だからトランプの支持基盤というのは変わらないのです。秋の中間選挙でトランプが大負けすれば、弾劾される可能性も出てくるわけです。下院は民主党が多数を占める可能性がかなりあります。そうなると下院は単純過半数で弾劾を発議できるのです。それを受け取った上院が3分の2の賛成で弾劾を決めることになりますが、上院で共和党が3分の1を下回ることはないでしょうから、普通なら弾劾は成立しないでしょう。しかし、共和党指導部が2020年の大統領選挙を見据えて、早めにトランプを諦めて、ペンス副大統領を大統領にしようという動きが出る可能性もあります。そうなると共和党から造反者が出てきて、上院で3分の2を満たす可能性だって否定できません。トランプにとってはこれが最も恐ろしいので、中間選挙での支持を集めるべく、(北朝鮮との)戦争に踏み切る可能性もあります。米国ではWartime Presidentは高い支持を集めるのです。Labor Dayのある9月第1週ごろを過ぎて何が起こるのか不断の注意が必要です。(4)テクノロジーの爆発テクノロジーがどれくらいの勢いで変わってきているのか。オックスフォード大学の調査によれば、テクノロジーの変化にはripple eect(さざ波効果:ほんの小さな変化がやがて大きな変化につながっていくこと)がみられる、すなわち、ripple(微風により生じるごく小さな波)からwave(波)へ、surf(大波)へ、そしてtsunami(津波)へと発展していくのが、今のテクノロジーの爆発です。要素技術の一つ一つで起こっていることが、単にテクノロジーの面だけでなく、ITの面だけでもなく、デモグラフィー(人口統計学)や地政学的なところまで含めて、すべてが一つの大きな津波となって襲いかかってきているのが今の世の中です。独裁的に振舞う指導者たちの時代という、まれに見 ファイナンス 2018 Aug.63連 載 ■ セミナー

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