ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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1989年のベルリンの壁崩壊、91年の旧ソ連邦の崩壊以降、世界の国境の壁はぐんと低くなり、ヒト、モノ、カネ、情報の国境を越えた移動が自由になり、そこから、一挙にグローバリゼーションが進展しました。グローバリゼーションは世界に良い影響をもたらしました。世界のGDPは3倍になり、貿易額は4倍になりました。そして絶対貧困者(1日1.9ドル未満で生活する者)の割合が1990年では世界人口の35%を占めていたのですが、現在ではそれが11%にまで減ってきています。つまり底上げも一緒になされたということで、グローバリゼーションがもたらした恩恵はとても大きい。しかし、その間に貧富の差がどんどん拡大していきました。世界の収入トップ10%の人々が世界の富の89%を握っている一方、下位50%である36億人は、世界の総資産のわずか1%しか保持していない、という極端なまでの貧富の差が生じているのです。もう一つのグローバリゼーションの影響は、移民・難民の著増です。これが主としてヨーロッパで大きな反発を招いていることはご案内のとおりです。そしてブレグジット(Brexit:英国の欧州連合からの離脱)が起こり、それからトランプ政権が登場し、フランスのマリーヌ・ル・ペン氏をはじめ、ポピュリストたちが欧州で大きな勢力を得るに至ったわけですが、トランプ大統領が言うところの「グローバリゼーションは人々から職を奪った」というのは間違いであります。米国の製造業雇用者は、1990年には1,740万人おりました。この後10年のうちにグローバリゼーションが急速に進みましたが、2000年においても米国の製造業雇用者は1,718万人いました。つまり10年で22万人しか減っていないのです。大きく減り始めたのはその後でして、今や1,240万人となりましたが、これは工場のオートメーション化、AI化等のテクノロジーがなせる技です。トランプ大統領は米国への投資を呼びこむため、米国へ資金を戻す企業に対して税額控除を認めることとしていますが、その結果、皮肉なことにトランプ大統領の支持基盤である米国のブルーカラー層が益々減少していくことになりかねないのです。(3)プーチン、習近平、金正恩、トランプア.プーチン、習近平、金正恩の「復活」今年3月に、ロシアのプーチン大統領は77%の得票率で大統領に再選されました。6年の任期で2024年まで大統領職にとどまります。2024年に彼はまだ71歳です。憲法を改正してでも、もう1期6年大統領を続けるのではないでしょうか。中国の習近平国家主席は、今年3月の憲法改正によって、任期の規定を撤廃し、そのまま終身制の国家主席になれるようにしました。従来の規定では2022年の次の党大会で辞めなければならなかったのです。北朝鮮の金正恩国務委員長は、20年、30年と今の地位を保ち続けるでしょう。この3人は長期の戦略を描きながら、自分たちの膨張政策を進めていくことができるのです。この3人の共通項は「復活」です。イ.ロシア:プーチン大統領プーチンは、ソ連邦が解体した1991年にKGB(国家保安委員会)の職員としてドレスデンに派遣されていました。そこで、東側世界が崩壊していくのを目の当たりにしました。ロシアとNATO諸国の間にはワルシャワ条約機構諸国がバッファー(緩衝)地域として存在していましたが、米国の政策によって99年にはポーランド、ハンガリー、チェコの3国がNATOに加盟します。この翌年の2000年にプーチンは大統領に就任します。この時まだ彼は米国との協調路線を探求していました。だから2001年のアフガニスタン侵攻のとき、米軍に対して中央アジアの基地利用を許可し、軍事情報も提供したのです。しかし、米国のブッシュ大統領は、2004年にまた東欧7か国のNATO加盟を認めました。この結果、ロシアとNATO諸国はラトビア、エストニアで国境を接するようになってしまったのです。残っているのは、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバしかない。プーチンとしては煮え湯を飲まされた思いをしたに違いありません。もう一つ言えば、北方領土交渉に当たり、ロシアの60 ファイナンス 2018 Aug.連 載 ■ セミナー

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