ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
62/88

ただ自分が窮地に陥り悩んだ時に、アジア開発銀行の創設に携わられた渡辺武氏の「アジア開発銀行総裁日記」を読んで、示唆と励ましを受けたことを思い出しました。自分としても問題のない範囲で簡単な覚え書きのようなものが書けないかと考えました。従って本稿を書き始めた際には、自分がどう考えて国際機関の立ち上げに携わったかだけを記憶の薄れないうちに素描風に書き止め、3~4回の不定期の連載で終わるつもりでした。書き始めてみると、諸先輩と同僚の皆様から多くの感想や助言を頂きました。心配していた「一方向からの記述」についても、むしろAMROないしASEANからは(日本から見えるものとは別の)こんなにも違う景色が見えていたのか、との声が多かったです。他方、シンガポールからはそう見えたかもしれないが、東京を始めとする各国ではこういう見方や動きがあったんだ、と教えてもらうこともしばしばありました。後輩の方々からは、アジアの人との付き合い方などを可能な限り具体的に書き込んでくださいとの要望が寄せられました。国際金融関係者ばかりではなく、国際法や歴史研究の関係者からも一つの国際機関の設立協定の策定について記録に残すことの意味を説かれたことがありました。こうした点にも配慮しつつ本文を読み物として読み易くするために、脚注が長くなりました。そうした声に乗せられて16回もの連載になりました。「ファイナンス」編集部の方には親身の協力をいただきました。5年の間数え切れないほど多くの方々の力添えがありましたが、諸般の事情から十分に書ききれていない部分が数多くあることにはお許しをお願いします。何よりも、本人の仕事が忙しい中で両親などの入院、介護などの事態を迎えていつつも、自分に対してはAMROの立ち上げまでは仕事を全うするよう暖かく励まし続けてくれた家族に感謝して筆を置きたいと思います。(注)本稿は、AMRO創設の過程で自分がどう考えたか、アジアの人とどう付き合ってきたかを中心に、言わば見聞録風にまとめるものです。在職時に加盟当局から受け取った情報に関してはその職を離れた後も守秘義務がかかっているため、個別の経済・金融情勢の機微にわたる部分などについては触れることはできず、また記述の中に一部省略などがあることへの理解をお願いします。どこの国が話を進めたとかを評価するのが目的ではないため、日本以外はなるべく匿名(A国など)で記すことにします。本稿の記述は、AMROまたは財務総合政策研究所の見解を表すものではありません。(前 財務総合政策研究所所長)58 ファイナンス 2018 Aug.国際機関を作るはなしASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録連 載 ■ 国際機関を作るはなし

元のページ  ../index.html#62

このブックを見る