ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
61/88

持ちました。研究所の仕事として、外部講師を呼んでの講演会や意見交換会を開催するのですが、関心のあるはずの部局からの出席がゼロのことがありました。根回しとか国会とかに忙しいためと推察されます。段取りや根回しに万全を期していても、政策の基礎となる理論や周囲の情報について組織としての学習や、外国の人に通用する論理で説明する訓練を怠ると、アジアを含め変化の速い世界についていけなくなることが危惧されました。アジアでは波が高い状態が続く分、各国とも急速に政策対応能力(と自信)を身に付けてきています。「働き方改革」の影響もあるようでした。定時に帰ることを前提に仕事を計画していて、国会やメディア対応などの突発的事態に対応すると、どうしても講演会、意見交換会などの優先順位が下がります。管理職が対応に追われるのはやむをえないにせよ、できれば部下の人には勉強の機会を与えて組織としての力を増して欲しいところでした。研究所としても、講師の方にお断りして、昼休みに講演会や勉強会などを開催したところ(各自昼食持込み)、会場に入りきれないほどの出席者があり、組織としての、特に若い職員の向学心が健在なことが確認できて安堵したことがありました。家庭にも5年振りに復帰しました。海外単身赴任が長い知合いの話では、帰国後は家庭内で単身赴任者抜きの生活の決まり事が出来ていて、それを習得し更に自分の陣地を再獲得するのに苦労するとの話でしたが、おかげさまで自分の場合はおおむね平穏でした。驚いたのは息子2人が家事に協力的になっていたことで、洗濯、風呂掃除、皿洗い、果ては簡単な料理までこなしています。特段の当番とかもなく、早く帰ってきた方や遅く出勤(登校)する方が自然に手を動かしています。家族内に病人が多く、母親が多忙な環境の中で自然と身に付いたことのようで、その点は感心させられました。何よりも有難かったのは、自分の家で自分の枕と布団で寝ると安眠できることです。そもそもがウサギ小屋の自宅の中に、朝型の次男と夜型の家内と長男がおり、隣人が犬を飼っているため、物理的な騒音レベルとしてはシンガポールの一人暮らしに比べ何倍もうるさいのでしょうが、生き物の気配がむしろ心理的な安心感をもたらしてくれているようです。スマートフォンを使って計測する睡眠の深さも、シンガポールでは3時間ほど浅い眠りが続き、明け方になってようやく深い眠りになっていたのに対し、自宅では就寝直後に深い眠りに落ち、明け方は浅い眠りとなり、格段に快適に目覚めることができます。「枕を高くして眠る」というのはこういうことかと、実感しただけではなく、スマートフォンのグラフで目に見える形で確認することができました。帰国して6か月は休みの日家にいる間はいつでも眠く、用事がなければ寝て過ごしていました。本を読んでもテレビを見ても10分くらいでうとうとしてしまいます。体ないし脳みそが、5年分の寝不足または睡眠の浅さを取り戻そうとしているかのようでした。6か月ほど経って、ようやく寝ているよりは、体を動かしたくなり、朝ジムに行ったり、週末はゴルフへ行ったりできるようになりました。落ちていた体重も自然に元の水準にもどり、血圧も正常な領域まで低下しました。終わりに(2018年8月)今まで自分の携わった仕事に関して何かを書くということには大きな躊躇がありました。AMROの設立の経緯についても、自分の理解には個人としての経験なり見識なりの制約があるはずで、「一方向」から見ただけの絵となることが心配でした。またある程度の時間を置かないと、自分の仕事を客観的に振り返るのは難しいとも考えました。加えて、AMROの守秘義務の関係から個別国の経済・金融情勢の機微にわたる部分などには触れることができないという制約もあります。当時の手帳やメールを読んでいるうちに、自分の記憶だけに頼るのは危ないことに何度も気付かされました*6。*6) 当時の手帳などに頼れば記憶違いによる誤りはある程度防ぐことはできますが、当時誤って理解していたことをそのまま記述することは防げない可能性があります。本稿執筆にあたり、自分でも怪しいと思われる点はできる限り文献を調べたり詳しい方の意見を求めたりしましたが、大きな誤りが残っているのではないか自分でも心配が尽きません。 ファイナンス 2018 Aug.57国際機関を作るはなしASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録連 載 ■ 国際機関を作るはなし

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る