ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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2016年2月にAMROは国際機関へ移行し、5月末には自分の所長としての任期末を迎えます。財務大臣・中央銀行会議で最後の挨拶をする(2016年5月)5月初めにフランクフルトで最後の財務大臣・中央銀行総裁会議がありました。サーベイランス(マクロ経済の調査・分析)の報告については、前に述べました。それまでの選考過程で、後任の所長には、中国の常チャン紅軍氏が選任されていました。中国の社会科学院で博士号を取得した才女で、中国財政部代表としてASEANと日中韓の会議の議長を務めたこともあり、安心してオフィスの運営を引き継ぐことができると思いました。最後の会議と言うことで機会が与えられたので、次のような挨拶をしました*1。「これまでの財務大臣、中央銀行総裁のAMROに対する支援に感謝申し上げたい。今後AMROは、アセアンと日中韓の問題について、新たな構想を提案したり、意見を調整したりするなど、ますます大きな役割を果たすための法的枠組みは作り上げることができたと考えている。今後AMROがその方向で活動できるよう大臣・総裁のご支援をお願いしたい。」背景を説明します。国際機関と一括りに説明してきましたが、加盟当局との関係について、東アジアの当局の間には大きく分けて二つの考え方がありました。一つは、国際機関というのは、加盟国の下部・補助機関であり、加盟国から指示のあったことを忠実に実行すればよく、それ以上の政策提案などはすべきではない、というものです。もう一つは、国際機関というのは、加盟国とは独立した存在で、場合により加盟国に対して、中立的立場から提言を行ったり、加盟国間の意見の集約を助けたりすべき、というものです。日本の財務省の一員として自分が接してきた国際機関の太宗はIMFやADBなど後者であり、中立的専門的提言をするのがその役割でした。ところが、東アジアの財務省・中央銀行の中には、前者の考え方を取るものがいた、というか、その考え方をする方が多かった印象を有しています。改めてその観点から見ると、東アジアに存在する国際機関は、ADBを例外として前者のような扱いを受けているものばかりでした*2。東アジアの多くの当局は一般論として国際機関は当局の指示を忠実に実行する下部・補助組織と見なしています。そうした環境の下で、自分が国際機関の立場から政策提言したり、対等に意見交換をしようとしたりするのは、身の程をわきまえない振舞いと受け止められ、神経を逆なですることもあったということです*3。AMRO設立協定に、マクロ経済の調査・分析機関として、各国当局から独立してAMROの意見を言えることを確保する条文を入れたことにも示されているように*4、自分は、国際機関を作る以上後者の立場を確保することによってこそ、個別国の利害や制約を離れて、地域の協力が中長期的に着実に前進できる、との考えでした。欧州の経験などを見てもそれは明らかです。最後の機会ということで、その点に財務大臣と中央銀総裁の注意を喚起してみたということです。国際機関への移行により、周囲の 受け止め方が変わったことを実感する(2016年春)2016年2月に、シンガポールの民間法人から国際機関になったことで、周囲の受け止め方は大きく変わっていました。具体例を二つだけ述べます。第一の例は、AMROへの応募者について、数が増国際機関を作るはなしASEAN+3マクロ経済 リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録その16(最終回)、AMRO所長を離任する(2016年春)根本 洋一54 ファイナンス 2018 Aug.連 載 ■ 国際機関を作るはなし

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