ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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が大幅に変化しており、労働賃金や労働分配率だけでみると判断を誤ってしまう。日本企業は経営構造改革、コスト削減などで、やっとROE10%を達成するまでになった。次は、持続的な成長への健全な投資リスクをどのように取るかというステージに入っているといえる。(山本氏)・そもそも企業が生み出す超過利潤自体が小さすぎるのが問題であり、それを取り合っても意味は薄い。パイ自体を大きくしていくことこそが重要である。企業はリスクを取るといったアニマルスピリットが重要であり、投資家は一定の貢献を行うことができる。(中神氏)質問2:企業が自ら現金保有するのではなく銀行からの資金調達をもっと活用できないか。・会社の戦略も含めて常に金融機関と情報を共有できていればスムーズな調達は可能だと思うが、一律でどの企業も銀行から借入れができるわけではない。(浅古氏)・企業が自ら過剰な現金を持たず、必要な時に銀行から借りる方が全体コストから考えると効率的だが、金融機関との関係にも左右されてしまう。銀行だけではなく、社債市場での資金調達のしやすさなど、多様な資金調達ができるようマーケットを健全化していくことが必要である。(山本氏)・M&Aは本質的にリスク性が高いため、銀行ではなくリスク性の高いエクイティマーケットが本来的にはしっかりと対応しなければならない。日本の株式市場がそれに対応していないといえる。(中神氏)3終わりにパネルディスカッションは、企業、投資家、政府当局のそれぞれの視点から意見が出されフロアーも含めて活発な議論が展開された。今回のワークショップは、多様な立場の人が一堂に集まり、様々な観点から議論をしていくことで、日本経済及び日本企業が抱える課題とその解決策を考えるきっかけとなった。日本経済がさらに成長するためには、日本企業が収益力をさらに高めて、人的資本への投資を進め、資本コストを意識した経営を進めていくことが欠かせない。こうした動きを後押しするためにも、企業は改訂コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを通じて投資家と建設的な対話を行い、経営に対する説明責任を果たし、収益力の向上、資本効率の改善を図るために自律的な対応を行っていくことが重要である。そして何よりも企業の経営者の果断な判断が求められる。日本企業がさらに成長し、日本経済全体の成長につなげることを期待したい。(参考1) 「今、日本の経営者に求められる企業価値の向上と企業経営―日本企業の現金保有は果たして合理的か―」(※財務総研からの報告資料等も掲載。)http://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2018/ws20180622.htm(参考2) 「イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2017/inv2017.htm(参考3) 「企業の投資戦略研究会―イノベーションに向けて―」http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/investment.htm本内容は執筆者の個人的見解であり財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。 ファイナンス 2018 Aug.47

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