ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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した企業が長期間放置されていることが日本の株式市場が抱えている大きな問題である。こうした状況を適正化していくことは、日本経済が成長していくためのチャレンジである。質問2:1つ目の質問との関連で、企業に意識改革を迫り、より合理的な行動をとるようにするために、具体的に何をすればよいとお考えか。■浅古氏:ガバナンス・コードが制定されても、企業が押し付けられていると考えているうちは形ができても機能しない。個社ごとに課題認識しなければ変わらないので、自ら認識して考えてもらう機会を増やしてはどうか。ルールを強制するよりは、自ら表明させるようにして、その表明したことに対して責任をもって行動してもらうよう、アプローチを見直してはどうか。経済合理性だけで議論するのではなく、車のハンドルの遊びのようなチャレンジ枠がないと企業は成長しなくなってしまう。企業が自主独立して責任があることを自覚する環境づくりが重要である。■山本氏:コメントは四つある。(1)経営者が投資機会を見出し、成長への投資は企業経営の原点だが、結果として過剰に、また無作為に現金が積み上がるのは経営的には非効率である。(2)企業の方針について、ロジックをもって説明責任を果たすことである。(3)ビジネスユニット長あるいは子会社を含めて資本コストの意識を持つことである。(4)企業価値を高めるための財務政策や資本政策についてトップから説明する機会を多く持ち、取締役会でも継続的に議論をし、考えを共有することである。■中神氏:現金だけではなく、超過利潤や資本生産性に対する意識を高めなければ、国の富が大きくならない。現在の株式市場の時価総額650兆円をいかに大きくしていくかは国にとっても大きなテーマであろう。国家的テーマにはよく「産官学」での取組みがうたわれるが、これに投資家も加えた「産官学投」でいい知恵を出し合っていくのはどうだろう。投資家がいる資本市場と企業経営の間の軋轢や摩擦は、長期的には企業経営を磨く触媒になりうる。企業が有機体でリアルな存在であることを良く理解している投資家が増え、「産官学投」で何が企業価値を高めるのかを議論していくことが大事である。■土井所長:最適な財務戦略は企業毎に異なるので、個別企業ごとにグッドガバナンスを実現していくことが重要。企業だけで難しい場合は、外からの圧力で気づいてもらうことが必要になり、投資家、株主によるガバナンスが大事である。しかし、政策保有株式が多い状況では株主を通じた規律が難しいため解消していくことが重要であり、解消できない場合はしっかり説明していくことを求めるといった現在の政策の方向は適切である。また、日本の機関投資家もプロの投資家に変わり、企業価値向上につながる財務戦略を提言できるようにならねばならない。それがあってはじめて株式市場、資本市場の軋轢を通じて企業が鍛えられることになる。日本の投資家が変わるには時間がかかるので、「外圧」も必要かもしれない。最近は、いわゆる「ハゲタカ」的な外国投資家ではなく、企業のバリューを引き出すため経営陣と話し合っていくアクティビストの外国投資家も増えている。こうした動きを通じて企業のコーポレートガバナンスを改善し、アベノミクスが掲げる日本経済の好循環を実現できないかと期待している。〈フロアーからの質問〉質問1:ROEが上がると企業価値は向上しているといわれるが、労働分配率は低下している。企業価値の観点から見た場合、こうした動きをどのように解釈しているか。・日本企業はコストカットで利益を出す経営を今までしてきた。非正規雇用の増加は、企業が労働にかける費用を低下させてきた結果であり、企業が人に対する投資を怠れば、成長や収益機会を逃す。十分なお金が消費者に渡らなければ日本経済全体は必ずしもうまく回らない。(土井所長)・社員にチャンスを与えることで企業の成長につながることもあり、合理化、効率化という発想だけでは、うまくいかない。戦略を実行するのは人であり、人に対する投資については、経営陣はしっかり考えていかなければならない課題である。(浅古氏)・10年前と比べ、メーカーの生産構造やコスト構造46 ファイナンス 2018 Aug.

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