ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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財務総合政策研究所 総括主任研究官 奥 愛/前主任研究官 橋本 逸人財務総合政策研究所(以下、財務総研)は、近年関心が高まっている企業の現金保有行動をテーマに研究を行い、その研究成果を踏まえ、ワークショップ「今、日本の経営者に求められる企業価値の向上と企業経営―日本企業の現金保有は果たして合理的か―」を6月22日(金)に霞が関ビル(アジア開発銀行研究所)で開催した。本ワークショップは、財務総研からの研究成果報告に加え、中神康議氏(みさき投資(株)代表取締役社長)から報告いただき、その後、パネルディスカッションを行った。パネリストには、山本高稔氏((株)日立製作所 社外取締役、東京エレクトロン(株)社外監査役)、浅古有寿氏((株)バンダイナムコホールディングス 取締役 経営企画本部長)を迎え、中神氏、土井俊範 財務総研所長も加わり、目黒克幸 財務総研総務研究部長のモデレーターのもと、日本企業の現金保有行動や企業価値の向上に関して意見交換を行った(肩書は全て当時)。本ワークショップには、企業役員を含めた企業関係者、市場関係者、学者、プレスを含め、非常に多くの方に参加いただき、本テーマへの関心の高さがうかがえた。本稿では、本ワークショップの概要を報告する。1報告(1) 「企業の現金保有行動とその合理性の検証」(奥愛 財務総研総括主任研究官)企業の経常利益は2016年度に過去最高の約75兆円にまで上昇し、7年連続の増益、4年連続の最高益を記録した。企業のバランスシート上の現預金は約211兆円にまで増加している。企業が稼いだ利益が結果としてバランスシート上に現預金として積み上がるだけでは、利益を生まない資産を保有しているに過ぎない。企業はなぜ現預金を保有するのか。先行研究では予備的動機等が指摘されているほか、全国の財務省財務局による企業へのヒアリング調査(2017年9-10月実施)でも、リーマンショック時の経験に基づく予備的動機や将来の投資機会への備えにするとの回答があった。一方で日本企業が保有する現預金の水準はアメリカ企業よりも高いことを示す結果がある。Kato,et al.(2017)は日本企業はアメリカ企業と比べて総資産に対する現預金の比率が高いという結果を得ている。また、企業部門のISバランスをみると、アメリカは貯蓄超過が解消傾向にあるが日本は貯蓄超過が続いている。さらに、実質無借金企業(現預金から借入金を差し引きプラスになる企業)の割合の推移をみると、アメリカは割合が下がる一方で日本は高まっている(図1)。日本の企業行動に関するワークショップ「今、日本の経営者に求められる企業価値の向上と企業経営―日本企業の現金保有は果たして合理的か―」の概要報告図1 実質無借金企業割合の推移(日米比較)0%2007年度2008年度2009年度2010年度2011年度2012年度2013年度2014年度2015年度2016年度2017年度20%10%40%30%60%50%(注)1.日本企業はTOPIX500から金融機関を除いた443社のうち欠損値を含む企業52社を除いた391社。アメリカ企業はS&P500から金融機関を除いた431社のうち欠損値を含む企業37社を除いた394社。2.期間は4/1から翌年3/31を年度としており、この間の本決算の数字を用いている(図2、3も同じ)。3.各決算期において、(現金および現金同等物)-{(短期借入金)+(長期借入金)+(受取手形割引高)}>0となる企業を実質無借金企業とする。借入金は社債を含む。4.データ取得日は2018年6月4日(図2、3、4も同じ)。(出所)Bloomberg(図2、3、4も同じ)日本アメリカ42 ファイナンス 2018 Aug.

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