ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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当時多くの市民はこの決定事項に危機感と不安を募らせたわけですが、市民や事業者は将来のまちを見据え「行政に不平不満を言うばかりでは将来を見通せない」「我々は行政や補助金に頼るばかりではなく、自分たちの力でまちづくりに参画しよう、まちおこしに繋げよう」と立ち上がり、「鹿島ガタリンピック」におきましては、今まで誰もが見向きもしなかった干潟を「負」の財産から地域の貴重な財産へと活用し、「鹿島酒蔵ツーリズム」におきましては、酒類販売自由化の波に飲み込まれないため、6つの蔵が協働で知恵を絞り商品に付加価値をつけ、同時に色んな催しやイベントを開催するなど、「仕掛け」に工夫を凝らすことで、新たな地域振興策・活性化策を図ったことが現在の「鹿島ガタリンピック」「鹿島酒蔵ツーリズム」へと繋がっています。その道のりは今日に至るまで決して平坦ではなく、企画、予算、ボランティアの要請など、困難な調整に思い悩む日々が続き、大変な苦労があったことも事実でございます。「祐徳稲荷神社」におきましては権ごん宮ぐう司じが先頭に立ってメディアに登場し、佐賀県や鹿島市を大きくPRしています。「祐徳稲荷神社」にお見えになるインバウンド対策については、訪れた外国人観光客を心から「おもてなし」するため、12カ国の通貨に対応する「外貨両替機」の設置や「無料SIMサービス」などを導入しています。「おみくじ」につきましても、母国語で読んで頂くよう6カ国の翻訳版を作成するほか、Wi-Fiを設置し、通信環境を整えるなど参拝客に手厚いサービスを心掛けています。権宮司の思いは「参拝者」ではなく「参拝客」であり、その熱い思いを「かたち」に表した結果、年間300万人を超える多くの参拝客や観光客の増加に繋がっています。※ 権宮司とは、神道である神社の職階の一つ。宮司に次ぐ地位で神社の副代表に相当する。2018年1月には、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている風情溢れる家並みで「鹿島酒蔵ツーリズム」の中心地である「肥前浜宿」地区を更に活性化させるため酒蔵や地域住民が共同出資し、空き家の「茅葺古民家」を飲食店や宿泊施設として整備するなど「稼ぐ観光地」を目指して「まちづくり公社」を設立致しました。この「まちづくり公社」は定住促進や商品開発にも取り組み、地域の消費喚起や雇用を生む活動に軸を置いています。2 派遣者(筆者)の取組みア.地方創生講演の実施当市はこれらの地域資源を活用した「交流人口」の増加を総合戦略の柱としており、ご紹介したとおり成果も現れておりますが、一方、私(筆者)の着任後の挨拶先では「若者流出が著しい」との悩みや声が多くの訪問先で聞かれたところです。しかしながら夢や希望を持つ若者を引き止めることは出来ません。そうであるならば、「若者自ら鹿島市や佐賀県に住み続けたい、働き続けたいと思って貰う事が大事だ」と考え、直接「若者のハートに訴える必要があるのではないか」「保護者や市民に訴える必要があるのではないか」と思い、まずは近隣の4高校に出向き「日本の人口減少や佐賀県の実情などを生徒に伝える機会を頂けないか」と相談したところ、学校側も「佐賀県全体の若者流出に危機感を感じているところだ」と聞き快諾を得ることができました。平成29年10月~11月にかけて4高校合計1,451名の生徒に講演を行ってきましたが、地方創生を語る際、大事なポイントは「日本は戦後、人口の増減を繰り返してきており、その都度イノベーションを起こしている。人口減少とGDPは必ずしも比例するものではない。人口減少というマイナス要因1点のみを捉えて悲観するのでなく、チャンスと捉える必要がある。佐賀県立鹿島実業高等学校での講演38 ファイナンス 2018 Aug.

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