ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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第1条は、両国元首及び両国間における平和友好をうたいつつ、両国民が相手国において保護(仏文上は「人及び財産の保護」)を受けられることを定めた規定である。前段は日米条約第1条、日英条約第1条に規定があるが、後段は日仏条約独自の規定である。この第1条は、仏文及びカタカナ文では両国元首間*21) 「外交官」の語には、両国の間の外交交渉など政務を司る者との意味が与えられており、1815年3月19日にウィーン会議においてオーストリア、スペイン、フランス、イギリス、ポルトガル、プロイセン、ロシア、スウェーデンの計8ヶ国で署名された「外交官の間の序列に関する規則」(仏語名はRèglement sur le rang entre les agens diplomatiques、ウィーン議定書付属書類の一部を構成)において、外交官には国の代表権を有する大使、接受国元首に対し派遣された公使又は接受国外務大臣に対し派遣された代理公使の3階級があることが規定されていた。なお、agensの綴りであるが、1835年以前のフランス語では、ntで終わる単語の複数形はnsと綴られており、agentの複数形は現在の綴りのagentsではなくagensと綴られていた。及び両国間の友好を規定しているが、漢字かな混じり文では「両国」間の友好のみを規定しており「両国元首」間の友好は規定していない。仏文とカタカナ文が近く、カタカナ文と漢字かな混じり文が食い違うのは奇妙だが、これは仏文から翻訳したカタカナ文を元に条約交渉が行われたからかもしれない。(3)第2条第2条は、フランスから日本へ、また、日本からフランスへ、外交官*21(和文ではミニストル)、領事(和文ではコンシユル)・領事職員(和文では(コンシユルの)代りのもの)を派遣できると規定しており、在日本フランス共和国大使館及び在フランス日本国大使館の淵源はこの条文にある。第3条では一般のフランス人の日本国内の移動範囲が限定されたが、この第2条では外交官及び総領事のみは制限なく日本国内を旅行することができると規定されている。日米条約第1条、日蘭条約第1条、日英条約第2条、日露条約第2条にも同様の規定がある。【仏文(現代語仮訳)】第2条フランス人民皇帝陛下は、江戸市中に居住する一名の外交官、及びこの条約に従ってフランスとの貿易に開放される日本の港に居住する領事又は領事職員を任命することができる。日本におけるフランスの外交官及び総領事は、帝国のすべての部分を自由に旅行する権利を有する。一方で、日本皇帝陛下は、パリに居住する一名の外交官、及びフランス帝国の港に居住する領事又は領事職員を派遣することができる。フランスにおける日本の外交官及び総領事は、フランス帝国のすべての部分を自由に旅行する権利を有する。【カタカナ文】第二条フランスノ クワウテイヨリ ニツポンエトヘ ミニストルヲ オクベシ コノ デウヤクヲ サダメタルトホリニ ニツポンノ ミナトヲ ヒラキシトコロヘ フランスノ コンシユル マタハ ソノカハリモノヲ オクベシ○ フランスノ ミニストル ナラビニ コンシユルゼ子ラールハ ニツポンノクニグニ イヅクヘモ マヰルベシ○ ニツポンノ タイクン フランスノパレイスヘ セイジニ アヅカル ヤクニンヲ オクベシ○ ニツポンノタイクン フランスノ ミナトミナトヘ トリシマリノヤクニン オヨビ カウエキヲ トリハカラフ ヤクニンヲ オクベシ○ ニツポンノ セイジニアヅカル ヤクニン ナラビニ トリシマリノ ヤクニンハ フランスノ クニグニ イヅクヘモ マヰルベシ【漢字かな混じり文】第二條佛蘭西國よりミニストルを日本江戸へ差越し並に日本の開きたる港へ佛蘭西のコンシユル又は其代りのものを差越へし日本に居留する佛蘭西のミニストル並にコンシユルセ子ラールは日本國の部内を旅行する免許あるへし日本國より政事に預る役人をパレイスへ遣すへし日本國より佛蘭西の港々へ取締の役人及交易を處置する役人を遣すへし其政事に預る役人及ひ頭立たる取締の役人は佛蘭西國の部内を旅行すへし ファイナンス 2018 Aug.31

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