ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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しかしながら、ポリシー策定から幾多の国際危機を経る中で、世界経済の先行きの不透明感から所得での卒業基準を超える国々が世銀から支援を受け続ける状況が続いており、これは限られた世銀のリソースを貧困削減のニーズのい高い低所得国に対してより多く振り向けるという方向性に逆行していた。先進国は、上述のLMICs向け融資配分増とコインの裏表のような論点として、卒業ポリシーの厳格な実施を求めた。これに対して、卒業基準所得以上のUMICs国(卒業基準以上国)を構成国に持つ途上国理事室は強く反発し、卒業はあくまで借入国の自主的判断の問題であると主張した。(4)投票権見直し増資を行う場合、資金基盤強化を目的とする一般増資(GCI)と、加盟国間の投票権シェアの調整を目的とする選択増資(SCI)の二つがあり、今般の議論ではGCIと合わせてSCIについても検討されてきた。中印等の新興国は、2002年のモンテレイ合意や2009年のイスタンブール・コミットメント以降続いてきた途上国の発言力強化を目指すボイス改革の観点から、経済規模拡大を反映した投票権見直しを強く要請していた。他方、新興国の主張は、一部の国の急激な投票権シェアの上昇をもたらす反面、その他の多くの途上国が希薄化し、途上国の代表性を高めるというボイス改革の趣旨にも反する側面もある。我が国は米等と共同歩調をとり、株主が経済力にふさわしい責任を果たすことが重要であり、各国が中長期的に継続してWBGの開発ミッションに貢献するインセンティブを確保する観点から、経済規模のみならずIDAへの資金貢献を踏まえた漸進的な調整が重要と主張した。このIDAへの資金貢献については、日本は、戦後の復興に一区切りついた1951年のIDA発足時から行っており(当時のシェアは約4.2%)、高度経済成長を経る中で徐々に貢献額を増やし、1980年代には欧州各国を大きく上回る貢献を行った。こうした長年の貢献の甲斐あって、1984年にIBRDで第二の株主となることに各国の了解が得られた。その後も日本は継続的にIDAに貢献し、直近のIDA18次増資を含めれば累計で約420億米ドルの貢献を行っている。他方、新興国の資金貢献はいまだ不十分であり、例えば新興国で最大のドナーである中国でさえ直近のIDA18次増資で約2.6%、累計で約11億米ドルの貢献に留まる。3資本増強パッケージ合意上記の通り、先進国・途上国(特に新興国)間の意見は鋭く対立したが、全理事・理事代理出席の泊まり込みの会議により、合意に向けた双方の歩み寄りがあり、結果的に以下の内容の資本増強パッケージが2018年春の開発委員会において合意された。(1)IBRD資本増強パッケージのポイント・融資規模:年間新規融資承認額でFY19-30平均で名目320億米ドルに増額(実質では270億米ドルであり、これはFY14-16実績240億米ドルとほぼ同水準)・融資配分:卒業基準以上国向け新規融資承認額の割合を現状の約40%からFY30までに約30%に引き下げ・卒業ポリシー:卒業基準以上国に対する、非所得基準のシステマチックな評価の実施と支援対象分野を卒業に向けた課題の解決や環境分野など国際公共財等に重点化・金利引き上げ:卒業基準以上国及び高所得国を対象に、返済期限の長い融資に対する金利の引き上げ・増資規模:総額約600億米ドル(約22%増資)、うち財政負担を必要とする払込資本の規模は約75億米ドル(残りは極めて例外的な場合にのみ財政負担が生じる請求払資本)・増資前後の投票権シェア:加盟国名見直し前(現行)見直し後1米国15.98%15.87%2日本6.89%6.83%3中国4.45%5.71%4独4.04%4.07%5英仏3.78%3.73%(2)IFC資本増強パッケージのポイント・融資規模:年間投資額(自己勘定投資及び民間資金動員の合計)をFY19-30平均で名目330億米ドルに増額(実質では270億米ドル。FY14-16実績は170億米ドル)・増資規模:総額55億米ドル(約210%)、全て払込資本(IFCに請求払資本は存在しない)24 ファイナンス 2018 Aug.

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