ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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た借入国を有するため、理事会でのpositionは先進国と途上国の双方の立場に配慮した発言が多かった。また中南米理事室の場合、所得水準が比較的高いUpper Middle Income Countries(UMICs)と相対的に所得水準が低いLower Middle Income Countries(LMICs)が混在するが、得てして理事輩出国であるUMICs寄りの主張が目立った。アフリカの理事室の多くは低所得国であり、IBRDの支援対象ではないことから、多くの争点について具体的なポジションを取らず、途上国一般に有利な発言に留まっていた。2主な論点こうしたダイナイズムを背景に、資本増強の議論が進むにつれて、UMICs支援のあり方が主な争点となり、これを巡る先進国とUMICsとの対立が先鋭化していった。ここでは、特にIBRDに関する具体的な主要論点として、金利引き上げ、融資配分、卒業ポリシー、投票権見直しについて述べたい。(1)金利引き上げ資本増強は増資以外にも収益改善による内部留保の蓄積によっても達成可能であり、収益改善策の一つとして様々な金利引き上げが検討された。具体的には、増収効果の高い一律引き上げ、借入国のニーズが高く資本負荷の高い返済期限の長い融資に対する金利の引き上げ、金利負担の増加に耐えられる相対的に所得水準の高い国への金利引き上げなどが検討対象に挙げられた。なお、所得水準の高い国への金利引き上げは、より低所得国が多く借りられるよう、所得水準の高い国が借り入れることをdiscourageする効果も期待され、特に後述するIBRDからの新規借り入れを行わない「卒業」のベンチマークとなる所得水準(GNI per capitaで約7,000米ドル)以上の国に対する金利引き上げとして検討された。理事会では、途上国は一致団結して金利引き上げに反対し、特に所得水準に応じた金利引き上げは差別的な金利(price discrimination)と舌鋒鋭く批判した。また後述する融資配分や卒業ポリシーの議論でも不利な扱いとなりうるUMIC国は、Shoot and hang(銃殺した上で絞首刑にする)として、金利引き上げと融資配分減額の両方は受け入れられないと強く反発した。一方、先進国側は議論が始まった際には具体策の選好に関して意見が割れたが、途上国側の一枚岩の猛烈な抵抗を目の当たりにし、現実的な案に異見を集約しなければ金利引き上げは実現できないと考えるようになった。その観点から、途上国全体を対象とする案は実現性が低いため、相対的に裕福なUMIC国のみ金利が上がる所得水準に応じた金利引き上げ(price dierentiation)にフォーカスを絞り厳しい交渉に臨んだ。(2)融資配分加盟国が増資に応じるためには、その資金が適切に活用されることが確保される必要があり、この観点から、融資支援をより必要とするLMICsに手厚く配分すべきか、成長はしたが温室効果ガスの主要な出し手となっていたりガバナンスが脆弱であったりするUMICsにも継続的な支援を行うべきかが大きな論点となった。この論点は先進国対途上国の対立というよりも、各国の開発協力に対する哲学が滲み出る論点であった。例えば、イギリスは自力で資金調達が困難な最貧国・紛争国こそ国際社会の支援を受けるべきとしてLMICs向け融資配分を極力増やすよう主張し、ドイツはパリ合意という国際社会にコミットメントを実現するためにはUMICsへの支援を削減すべきではないという立場であった。途上国は理事室内でLMICs対UMICsの意見調整を余儀なくされたが、理事室内で声の大きいUMICsの立場を擁護する主張か、どちらにも配慮して明確なポジションを控える理事室が多かった。(3)卒業ポリシー借入国は、経済社会の発展に伴い、いずれ世銀の支援から卒業して、自力での成長をめざしていくことが期待されている。世銀では1982年に卒業に関する基準を定めた卒業ポリシーが合意されているが、当該ポリシーでは卒業は借入国の自主的判断としつつも、所得水準(GNI per capitaで約7,000米ドル)を超えた場合は、資金アクセスや経済社会制度の整備状況と言った観点から支援継続の妥当性を検討することとされている。 ファイナンス 2018 Aug.23

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