ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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主税局調査課税制調査室長(前・主税局税制第二課課長補佐) 伊藤 孝一1はじめに平成30年4月11日に国際観光旅客税法が成立し、独立した国税としては27年振りとなる新税として、国際観光旅客税が平成31年1月より導入されることになりました。本税は、出国する旅客に対し出国1回につき1,000円の負担を求め、主に航空会社を通じて徴収を行うものです。平年度で430億円程度が見込まれる税収は、観光基盤の拡充・強化を図るため、別法(改正国際観光振興法)において、ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備等に充当することが定められています。本稿では、新税創設に至った経緯等について、その概要を紹介します。2観光財源の検討経緯(1)背景観光は、世界において拡大と多様化を続けており、社会経済の発展を牽引しています。我が国は、自然・文化・気候・食という観光振興に必要な条件を兼ね備えた数少ない国の一つであり、政府は観光を成長戦略の柱、地方創生の切り札と位置付け、精力的に取り組んできました。その結果、訪日外国人旅行者は平成28年に初めて2,400万人を超えるなど、堅調に推移しています。しかしながら、「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月30日)が掲げる2020年4,000万人、2030年6,000万人等の目標や、2020年の東京オリンピック開催等を踏まえれば、より高次元の観光施策を展開することが急務であり、安定的な財源を確保することが重要です。このような問題意識を背景に、「観光ビジョン」や「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日)において、観光財源の確保を目指す旨が明記され、観光庁を中心に検討が進められました。(2)検討会の開催平成29年8月、平成30年度税制改正要望として、国土交通省(観光庁)から財務省に対し、「次世代の観光立国実現のための財源の検討」との要望が提出されました。これは、要望時点における検討状況に鑑み、税方式に限定することなく財源の確保策の検討を行うことについて要望されたものです。9月には、観光庁において「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」(以下「検討会」といいます。)が設置され、観光財源の必要性、確保策、使途について議論されました。財源確保策については、まず、事務局から、諸外国の事例について、OECDの報告書を参考に、出入国、航空旅行、宿泊の3類型の紹介があった後、航空業界、船舶業界、観光業界へのヒアリング等を通じ、以下のような議論がありました。・負担を求める対象に関し、今後のインバウンド拡大等増加する観光需要に対して高次元の施策を講ずるための財源であること等に鑑みれば、「出入国」に負担を求めることが適当ではないか。また、この場合、諸外国の例に倣い、出国時に負担を求めることが妥当。(「国内線を含めた航空旅行」、「宿泊」についても検討したが、宿泊税等既存の負担との関係もあり事業者から反対の声が大きい。)・財源確保の手法については、観光施策が今後も高度化すること等に鑑みれば、機動的に措置を講ずることができるよう、租税とすることが適当ではないか。他方、手数料・負担金等による方法を採った場国際観光旅客税の創設について本稿の執筆に当たり、本税創設を共に担当した山下正通主税企画官、宮地孝一課長補佐、馬場洋二郎係長、中曽善文係長、大東一雄調査主任、鈴木悠夫係員をはじめとする関係者の協力を得ましたが、意見に係る部分は筆者個人のものです。18 ファイナンス 2018 Aug.

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