ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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適用する際、他国での経験は非常に有益であることが多く、そうした経験を共有することが、今回のような国際コンファレンスの意義であるとし、この2日間で出席者がお互いに多くのことを学べたであろうことを期待して当該フォーラムの閉会の辞とした。(コンファレンスから得られる政策的示唆)以下では、まとめに代えてコンファレンスから得たいくつかの政策的示唆を挙げておきたい。(中には筆者の個人的見解に属するものもかなり含まれている可能性があるが、なにとぞご容赦いただきたい。)■財政ルールの有効性:一点目として、財政ルールの有効性について、その先駆者である欧州からの出席者に弱気な声が聞かれたことは意外でもあり、また興味深かった。コンファレンスにおいてLuc Eyraud氏が述べていた通り、「どんなに素晴らしい財政ルールを構築したとしても、政治的なインセンティブに適合しなければ失敗する運命にある」のであり、どのようなルールを作っても結局のところ、様々な財政出動圧力から財政当局は逃れることができない。最終的にはそれぞれの時点の具体的な経済状況に応じて適切な財政政策を判断するということにならざるを得ず、財政政策当局者としては、外形的なルールに過度な期待を寄せてはいけない、ということが欧州での経験から見た真実に近いのではないだろうか。原則的なルールだけでは特例となるような状況に対応できず、一方で特例を後々許可すると、際限なく広がり、ルール自体の形骸化を招くことになりかねない。ルールの例外規定を予め設定する趣旨はここにあるのだろう。ただし、何を例外規定と設定するか、また、現状が例外規定を適用する状況にあるのか、といった判断は財政当局に委ねられている部分も多く、こうした点で財政当局の適切な現状認識と状況判断は財政ルールを用いた財政運営においても重要であると考えられる。また、こうした判断の前提として、健全財政の重要性に対する国民の理解が重要であることは言うまでもなく、当局はその判断に関して、国民に対する説明責任を負うということになるのだろう。このように、ルールとしての財政運営に財政当局の適切な裁量及び国民の理解が加わることで、財政政策のカウンターシクリカリティが担保されるということではないだろうか。■ IMFの公的インフラ管理アセスメント(PIMA)の活用二点目として、インフラ投資のガバナンスについて、IMFが開発したPIMAフレームワークには将来への様々な活用可能性が感じられた。これがアジア諸国のインフラ投資能力の評価に関する有用なツールになるのであれば、日本の推進する「質の高いインフライニシアティブ」に貢献する有用なフレームワークとなりうると思われた。(おわりに)コンファレンス当日は多数の質問が出て大変に盛り上がり、出席者からのアンケート結果を見ても、今後の政策立案に大変に参考になるとの意見が多数であった。我田引水ながら、大変有意義なコンファレンスになったのではないかと考えている。今回の会議に多大なるご貢献をいただいた、共催者たるIMF・ADBI、パネリスト・討論者諸氏、参加者その他関係者の皆様に厚く御礼申し上げたい。セッションにおける議論の模様 ファイナンス 2018 Aug.17

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