ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
18/88

を経済分析に基づいて設定すること、(4)明確に適用除外の状況を決めること、(5)財政当局は透明性と説明責任を高めること等が指摘された。このような状況を踏まえ、改革の方向性としては、債務の危険水準(debt anchor)と整合的であるような少数のルール(特に財務当局がコントロール可能な歳出ルール)を設定することや、財政規律を順守するためのインセンティブの付与等が挙げられた。セッション2:インフラ・ガバナンスの強化司 会:Chul Ju KimADBI副所長発表者:Gerd SchwartzIMF財政局次長A. R. Desapriyaスリランカ財務省副長官Mohamad Ikhsanインドネシア大学教授/副大統領上級顧問Daniel Rundeウィリアム・A・シュレイヤー議長兼取締役、繁栄と発展プロジェクト、アメリカ戦略国際問題研究所討論者:北野 尚宏早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授インフラは経済の基盤であり、インフラ投資は多くの国・地域にとって必要性の高いものであるものの、その質や効率性に関しては改善点も多い。そうした背景から、IMFではインフラ・ガバナンスを評価するためのツールとして、PIMA(Public Investment Management Assessment)を構築した。PIMAでは、投資計画、資金確保、実行の3段階において、5つの観点からの質問に答えることで、当該インフラ投資を包括的に評価することが可能となり、脆弱性の見つかった分野を改善することができる。実際にスリランカでは昨年12月にPIMAの診断を受け、その助言を参考に現在、大規模なプロジェクトの実施を確実にするためのシステムの構築(複数年予算の強化等)や調達プロセスの合理化といったインフラ投資の改革に取り組んでいることが報告された。また、インドネシアにおける公共投資の改善に向けた取組みについても報告があった。インドネシアでは、政治サイクルによって財政が大きな影響を受けている。例えば、選挙年には補助金額が増加するといったことが発生しており、選挙年に改革を行うことは困難となっている。更には、ここ10年近く連立政権が続いており、政策の多くが一致せず、妥協しなければならないこと、既得権益なども問題点として挙げられた。セッション3:インフラ整備のための民間分門の活用強化と官民連携プロジェクト(PPP)における財政リスクの軽減司 会:西沢 利郎東京大学公共政策大学院特任教授発表者:Jay-Hyung Kim世界銀行ガバナンスグローバルプラクティスアドバイザーHolger van EdenIMF東南アジア地域財政管理アドバイザーSyed Afsor H. Uddinバングラデシュ首相府PPP局最高責任者Mohammad Reezal Ahmad マレーシア財務省財政・経済局財務政策室戦略課長討論者:吉野 直行アジア開発銀行研究所所長公共投資は経済成長や生活の質の向上という観点から重要であるものの、公共部門におけるコスト管理やマネジメントの難しさによる非効率性が常に問題となり得るため、効率性やサービスの質の向上という観点からPPPがその解決策として多くの国で活用されている。しかし一方で、PPPには、偶発債務の可能性や長期にわたる政府からの補助金などの財政リスクを見えにくくする効果もあり、不十分なガバナンスの下では、当初の財政負担が小さく見えることによって、結果的に非効率なプロジェクトも実施されてしまうといった問題点も指摘されている。こうした課題に対処するための方法として、IMFと世銀はPPPのマネジメントツールであるPFRAM(PPP-Fiscal Risk Assessment Model)を構築しており、これを用いることで民間業者のキャッシュフローや公的債務に対するインパクト等を予測すると共に、どの観点からの改善が急務であるかを評価することができる。また、PPPを通常の公共投資と共に管理することにより、PPPを特別扱いすることなく統一的に、公共投資と同水準で効率性や持続可能性を評価すべきであるとの指摘もあった。また、PPPの改革に関するバングラデシュやマレーシアの取組みも報告された。バングラデシュでは、他国からバングラデシュへの投資を呼び込むため、規制環境の整備や財務省の組織変更、職員研修、PPPに対する特別予算の編成や審議といった枠組み作りが行われたことが報告された。マレーシアでも財務省の役割強化や会計処理の方法を現金主義から発生主義に変更14 ファイナンス 2018 Aug.

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る