ファイナンス 2018年8月号 Vol.54 No.5
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財務総合政策研究所 前総務課長 小平 武史/前主任研究官 佐々木 明日香/主任研究官 林 ひとみ・EUでの財政ルールの運用経験から言えることとして、単に厳格な「財政ルール」を導入するだけでは、景気循環を打ち消すような(いわゆる“counter-cyclical”な)財政運営と財政の健全性の両立は難しい。それぞれの状況に応じた財政当局者の適切な現状認識と判断、そして国民の健全財政への正しい理解も重要。・アジア諸国において「質の高いインフラ」を構築していくに際し、新興国政府におけるインフラ投資のマネジメント能力をIMFのミッションが評価する「公的インフラ管理アセスメント(PIMA)」は有効なツールとなりうる。2018年6月4日~5日、財務総合政策研究所は、IMF・アジア開発銀行研究所(ADBI)との共催により、アジア諸国の財政当局者を招き、第4回Tokyo Fiscal Forumと題した国際コンファレンスを開催した。このコンファレンスは、日本政府からの財政支援を用いたIMFによるアジア諸国財政当局への知的支援の一環として開催されているものであるが、世界各国から一流の研究者を招聘した学術会議の側面もある。以下、コンファレンスの模様をレポートする。(コンファレンスのテーマと全体構成)今年のコンファレンスのテーマは「アジアにおける財政運営手法の強化」であった。ケインズ政策への懐疑的な見解が有力となっていった1970年代以降、エコノミストの間では財政政策の短期的な経済安定化機能の有効性に疑問が呈され、健全財政の維持こそが財政当局にとっての経済安定化のための手段であるとの見解が広まっていたが、リーマンショック後、金融政策が手詰まりとなる状況では財政政策が有効な場面もありうる、ということが再認識されつつある状況にある。だからと言って長期的な財政の持続可能性が軽視されてはならないというのもエコノミストの間ではコンセンサスとなっている。したがって、国の財政政策は、景気循環の波を打ち消しつつも(いわゆる“counter-cyclical”)、長期的に持続可能な形で運用されることが望ましいとの認識が現在のIMFや財政政策当局者の共通認識となりつつある。特に直近では、世界経済の回復が軌道に乗る中で、リーマンショック時に急激に財政出動を行った各国が財政健全化に向かわなければならない状況にあるが、こうした中で、counter-cyclicalな財政運営をどのような手段により担保することが可能か、各国の財政政策当局者が真剣に考えなければならない段階に来ており、この問題をセッション1で取り上げた。また、財政運営をより効率的に行うための方法論として、セッション4ではデジタル技術を活用した財政運営管理の改善を取り上げた。また、アジア諸国において「質の高いインフラ」を構築するためには、インフラ投資を財政的に持続可能な仕組みの下で進めていくことが必要である。そのため、インフラ投資を持続可能なかたちで行うために望ましいガバナンスのあり方をセッション2で取り上げ、アジア諸国の国家財政は長期的に健全たりうるか?財務総合政策研究所は本年6月4日~5日に第4回Tokyo Fiscal Forumを開催フォトセッションの模様12 ファイナンス 2018 Aug.

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