ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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この点に目を向けて、どこまでだったら部下ができるのか、を話し合っていただきたいと思います。3つ目は、大きい楽しみや喜びは日常生活ではそれほどないので、「小さな喜びや達成感の積み重ね」も重要です。(ウ)問題を絞り込む悩んでいる人は、問題が曖昧になっていることが多いです。問題を絞り込むことが苦手なのです。先ずどこに注力すべきなのかを整理して、次にいい悪いは別にして可能性がある解決策を考えていくことが大切です。皆さん方が部下の方とお話しされる場合でも、問題を1つに絞って、それに対してどんな解決策があるのかを複数考えていくことがよいと思います。うつ病を患った故倉嶋厚さん(気象学者、気象キャスター)が、「問題を整理するときは、縦に並べるとよい」と言っていました。問題を横に並べて、あれもこれもやらないといけないとなると、パフォーマンスが悪くなります。問題は縦に並べて目の前から一つ一つ解決していく方がよいのです。(2)夢(ア)ベックは夢をあきらめなかった問題を解決するとき、私たちは、つい目の前の問題にばかり目を奪われがちですが、実は患者さんが「この後どのように生きていきたいのか」が大事なのです。私は、患者さんと向き合うとき、患者さんの夢や患者さんにとって大切なことは何かを一緒に考えていくようにしています。ベックが提唱した認知行動療法は30年近く認められませんでした。その間、世間から相手にされなかった彼は、自分の娘に認知行動療法のことを話して聞かせ、娘から「なかなかいいんじゃない?」と言われ、気持ちを強く持つことができたそうです。しかし、夢をあきらめなかったので頑張り続けることができ、世界に認められるまでになりました。(イ)自ら決めつけていないか?患者さんの夢を実現するため、目の前の心の問題を解決することは確かに重要です。私は患者さんと面談する際に、7項目からなる「思考記録表」というものを患者さんに記入してもらいます。患者さんがある場面(「状況」)において、不安とか緊張(「気分」)を感じるとき、その場で患者さんの頭にぱっと浮かんだ考え(「自動思考」)は、必ずしも事実ではないのです。まずネガティブな方向で考えるからです。そこで情報収集して全体が見えたところで(当初の「根拠」とその後の「反証」)、ではどうしようか、と考えて(「適応的思考」)、現在の気分(「気分の変化」)を把握する、これが「思考記録表」の役割です。ここで、私が不安を感じている患者さんと話しをした時の動画を見ていただくことにします。以前NHKで放送したものです。この患者さんは、人前で話していて(=状況)「緊張した」(=気分)と言います。なぜそうした気分になったのかをパッと考えて「相手の人は聞きにくかったはずだ」と答え(=自動思考)、その理由として「自分がしゃべりにくくなったから」(=根拠)を挙げたのです。確かにその可能性はあるのですが、ここにある種の「決めつけ」がないだろうか、ということを一緒に話し合っていく内容です。~動画視聴~私が「確かに聞きにくかったのかもしれない。しかし十分準備していますよね。以前と違って話せるようになっていますよね。」と言う(=反証)と、患者さんの気持ちが少し変わってくるのです。以前と比べて話せるようになっていることが分かると緊張感が取れてきます(=気分の変化)。そこで少しアクセルを踏めるようになって、では次にどうすればいいだろうか(=適応的思考)と話を進めていくことができるのです。決してこうせよ、ああせよ、と指示するのではなく、現場で一緒に考えていくのです。その時に上司の方が意識すべきことは「この人にとって何が大切なのか」という点を忘れないことです。秋田県で、自殺防止対策に取り組んでいる佐藤久男さんという方がいます。佐藤さんは、自分の会社が万策尽きて倒産したときに自殺を考えたのですが、娘さんが気づき、「お父さん、自殺を考えているんじゃないでしょうね? でも勝手に自殺したら墓参りには行 ファイナンス 2018 Jul.77連 載 ■ セミナー

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