ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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れました。400名の方にストレスチェックをして、その上で、鼻の粘膜に風邪のウイルスをたらすという実験です。その結果、ストレスの強度と風邪の罹患割合との関係はきれいな直線で表されたのです。また、本当にウイルスに罹患しているか、抗体を調べてみてもやはり直線となるのです。つまり免疫の働きが落ちるのです。このように病気と精神的なストレスとは非常に関係がありますし、例えば心筋梗塞でよく言われるのは、うつ病に罹った人とそうでない人では、半年後、1年後の死亡率が明らかに違う、というものです。心と体は独立したものではなく、両方考えなくてはいけないのです。心の健康は体の健康にもつながってくるのです。5. 認知行動療法でこころの健康は 高まるか私は10年位前に認知行動療法を活用した「こころのスキルアップトレーニング」というセルフヘルプのサイトを立ち上げました。IT関係の方から「『寂しい』というキーワードで携帯サイト検索する人が多く見受けられ、そこから怪しげなサイトにたどりつくことが多い。もっと健康的なサイトを作れないだろうか。」という話を聞いたことがきっかけです。これが職場での心の健康に役立つかどうかということを北里大学のグループと一緒に研究しました。まず職場で集団教育を1時間半程度行い、その後にサイトで自己学習する。その結果、職場での心の健康がどう変わるのか、を調べたものです。ある上場企業113名を対象にした調査では、6項目でストレス度をチェックする方法で、得点が4点以下、いわゆる「健康な人たち」は、だいたい職場の3分の2を占めていますが、この人たちに仕事のパフォーマンスの変化を自己評価してもらうと、教育後はパフォーマンスが向上していました。また別の企業で、先ほどの得点が5点以上、すなわち「疲れている人」を対象に調べてみると、研修を実施するとストレス度の度合いが改善しました。ただし、1回きりの研修だと、元に戻ってしまいますので、このようなサイトを使って自己学習を継続する必要があることがわかりました。6. こころの健康を高める3つの ポイント次に、心の健康を高める3つのポイントについてお話いたします。「やりがい」「夢」「絆」の3つが大事になります。(1)やりがい(ア)「できた感」がないと学習性無力感に一つ目は「やりがい」を感じられるかどうかです。「やりがい」が心の健康にどのように影響してくるのか。アメリカの心理学者マーティン・セリグマンがこの点を明らかにした研究結果を50年前に発表しています。これは「学習性無力感」という言葉で知られているものです。「どうせ何をやってもだめだ」と思うと意欲がなくなる。いくら辛くても自分で何とかできると考えると意欲を持ち続けることができる、という研究です。セリグマンは犬を使って実験しました。1匹の犬には何もしない、2匹目の犬には足に不定期に電流が流れるようにして、鼻でボタンを押して電流を止めることができるようにしておく。3匹目の犬にも足に電流が流れるようにして、こちらは鼻でボタンを押しても電流を止めることはできないようにする。2匹目の犬は不定期に電流が流れてきてもボタンを押すことで電流を止めることができる、すなわち、つらい状況にあっても自分でコントロールすることができるのです。でも3匹目の犬はボタンを押しても電流を止めることができない。どうせ何をやってもダメだ、と無力感を学習してしまう。次に、その犬たちを床に置いて床に電流を流すのです。そうすると、何もされなかった犬はもちろんのこと、自分で何とかできると思った犬も逃げ出すのです。自然な反応です。ところが、「どうせ何をやってもダメだ」と考えたと考えられる犬はもう動かないのです。そして「やっぱりダメだった」と考える。これが「学習性無力感」なのです。ここから分かることは、いくら辛くても、それなり ファイナンス 2018 Jul.75連 載 ■ セミナー
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