ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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いましたが、IRS(米国内国歳入庁)との直接関係はなかったため、私は敢えて個人的な関係確立にチャレンジしました。すなわち、ニューヨークで開催されたTax Seminarに参加した私は、誰にでも声をかけ、名刺交換し、人的関係を築こうとしました。非常に厚かましいものでしたが、おかげで一人のIRS査察官と仲良くなり、本物の査察官バッジ(FBIバッジのようなものを持っていました)も見せてもらい、その後も何回か一緒にお酒を飲みにも行きました。また、アメリカの税法を細かく調べる必要があった時、大学のロースクールに行かないとそれが手に入らないことがわかりました。ニューヨーク・マンハッタンで税法関係の専門書の多いロースクールといえば、やはりニューヨーク大学ロースクールです。しかし、簡単に誰でも入れるものではありません。ここでも厚かましさを発揮。すなわち、伝手がなければ伝手を作ろうと決心し、以前留学したコーネル大学の先生にニューヨーク大学の先生を無理やり紹介してもらい、ロースクールの年間入館証を無事に手に入れ、本を借りることも、コピーも自由に出来るようになりました。これにより、本来業務が円滑に進んだのはいうまでもありません。当時、私はマンハッタンのグランド・セントラル駅から北へ電車で30分のスカースデールという住宅街に住んでいました。そこでも、日本の習慣では考えられないことが多々ありました。ある日、私は国税庁への書類提出のため、駅前郵便局のパーキングメーターに25セントコインを入れ、車を駐車したところ、この日はなぜかカウンターは長蛇の列。駐車満了時間を1分経過していたので走って戻ったところ、駐車禁止の違反チケット。近くの駐禁おじさんに必死に懇願しましたが完全無視。仕方なく、違反チケットを一生懸命読んでいると、何と本日中に支払えば確か半額の10ドルで良いと書いてあるではないですか。すぐさま指定の裁判所窓口に行き、10ドル支払って一件落着。アメリカは州によって交通法規は異なりますが、こういう世界もあるのだなと実感しました。日本も同様の制度があれば、未納が減るのかもしれません。駐車違反といえば、もう一件。留学時にカナダのモントリオールに行った時のことです。モントリオールオリンピックのあったこの都市は、カナダのケベック州にあり、フランス系カナダ人が住民の大半で、第1言語はフランス語です。このため、道路標識もフランス語で書かれていました。フランス語の読めない私は、万国共通の駐車違反マークをしっかりと確認の上で車を駐車し、記念写真を撮って車に戻ると違反チケットがワイパーに挟まれているではありませんか。違反チケットは、フランス語と英語の併記ですが、肝心な違反理由は警察官の手書きのフランス語。読めません。そのままアメリカの家に戻り、友人に読んでもらうと、何と私は住民以外駐車禁止の場所に車を止めていたらしいのです。万全を期したはずなのに…と思いつつ、罰金を郵送しようとしていると友人曰く、「何で支払うんだ。外国人にわかるわけがない。クレームするべきだ」と。だめもとで、モントリオール警察署に延々と言い訳を書いた手紙を送ったところ「わかった、今後気をつけなさい」とのこと。日本ではありえないことが、海外ではありうることの一例でした。また、子供に対する教育も、日本とは全く異なり、日本を基準で考えると驚きの連続でした。すなわち、のんびり主義とエリート精鋭主義の共存でした。当時Edgewood Elementary School1年生であった長女の授業内容は日本のまるで幼稚園のようでした。とにかく楽しければよいという感じで、ある日、パジャマデーというのがあり、なぜか全員普段のパジャマで登校し、ぬいぐるみなど自由に持ってきて一日を過ごすというものです。日本の教育熱心な親御さんからすればクレーム対象かもしれません。一方、特にスポーツに関しては、とにかく楽しませる主義であって、試合も楽しませる一環でした。但し、その中からいわゆる出来る子に対してはエリート精鋭主義を徹底していました。娘を例にとると、夏休みに町のプールに行った時のことです。全く泳げないため、水遊びしていたのですが、これを機会に水泳を学ぼうとしたところ、選抜テストがあり、それに合格しないとプールを使えないとあり、水遊び目的の娘はそれなりに必死でした。2週間後のテストで12メートル泳ぐことが求められたのですが、娘は8メートル付近と11メートル付近で2回溺れ、あやうく中止になりそうだったのですが、最後は沈みながら根性で12メートルの壁をタッチし、ぎりぎり合格。それか68 ファイナンス 2018 Jul.連 載 ■ 海外ウォッチャー
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