ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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3%を超えたのは1994年の3.1%まで遡ることとなることから、如何に大胆且つ踏み込んだ指標であったかが窺える*12。さらに、日本商工会議所や経済同友会も賃上げへの前向きな姿勢を示した*13。日本商工会議所三村明夫会頭は、3%の賃上げについて上げられる企業は上げるべきとし、経済同友会小林喜光代表幹事は、同数値目標について、唐突な要請であったと留保しつつも、一つの「目安」として受け止めるべき旨を表明した*14。また、働き方改革への取組としては、働き方改革実行計画や働き方改革関連法の内容を先取るような形で職場環境の改善に取り組むように経営者へ働きかけ*15、労使交渉でもこうした議論が真摯に行われるように努める旨が経労委報告に明記された。4-2.労使交渉の成果前節で示した通り、政労使の今年の共通目標は「賃上げ」と「働き方改革」である。本節では、それぞれについて、本年の労使交渉の成果を以下で評価する。*12) 2018年1月17日日本経済新聞朝刊「経団連「賃上げ3%」呼応」*13) 2018年1月5日日本経済新聞電子版「経済界、賃上げ3%に前向き 首相が要請」*14) 2017年12月12日小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言より*15) 2018年経労委報告では、「各企業には、改正法案の成立・施行を待つことなく、長時間労働を前提とした働き方や仕事の進め方を抜本的に見直すべく、労使で十分に話し合い、社員が健康に働くことができる職場環境の整備を進めていく必要がある」と述べられている。*16) 2018年5月28日の第7回経済財政諮問会議にて、榊原経団連会長より「賃金の状況を報告する・先週も速報的に御報告したが、その後、経団連首脳企業で調査した。その結果を御報告すると、対前年比で、年収ベースで3%以上の引上げを行ったとした回答企業が、全体の76%。これはn数が少ない数字だが、3%の賃金引上げといった期待、あるいは社会的要請も含め、多くの企業が積極的に賃上げに取り組んだ、証左の1つだと考えている。こうした賃金引上げのモーメンタムが個人消費の活性化につながることを期待したい。」との報告があった。*17) 平成30年3月24日朝日新聞朝刊「トヨタ春闘、ベア非公表の波紋」*18) NIKKEI BUSINESS2018年5月7日号「編集長インタビュー―連合会長 神津里季生氏―賃上げに手応えも不満あり」4-2-1.賃上げ図表5は、これまでの連合発表の賃上げ率のうち、集計対象企業全体とそのうちの中小企業の月例賃金についての賃上げ率推移を分けて示したものである。この表を見ると、直近の賃上げ率は2.07%であるが、一時金についても昨年を上回る勢いであることや、経団連の行った調査では、年収ベースで3%以上の引上げを行ったとした回答企業が全体の76%に上るといったことも報告されており*16、力強い賃上げの流れが今年も続いていると言える。また、今年の中小企業の賃上げ率を見ると、直近5年の中でも比較的高水準となっており、中小企業のベア分の好調さは連合が指摘している通りである。また、労使交渉システムにおける大変重要な変化として、労使交渉のパターンセッターの役割を担っていたトヨタ自動車がその座から降りたことが挙げられる。これが示唆することは、従来の賃金波及パターンの仕組みが崩れつつある*17ということであり、連合が唱導した「大手追従・大手準拠などの構造を転換する」という動きとの見方もある*18。4-2-2.働き方改革今回のもう一つの春季労使交渉の焦点である「働き方改革」は、やはり大変重要な意味を持った。前述の通り、政府は働き方改革実行計画に基づいた働き方改革関連法を成立させ、その施行が待たれるところではあるが、労使交渉の結果、その法律を先取るような要求への対応や、法律の要求水準以上の労働環境整備を行っている企業が多かったことは特筆に値する。労使交渉の中で、働き方改革についての注目度が上がっていることは、連合の集計している結果(図表6)を見ても明白である。ここからは、実際に多くの労働組合が、今年の労使交渉で企業側に対して働き方改革の要求を行い、その多くが妥結されていることが分かる。図表5:連合 賃上げ率(全体・中小)の推移(%)全体中小企業(組合員300人未満)2.82.62.42.22.01.81.61.41.21.01718161514131211100908070605040302012000991998(年)(出典)連合『春闘(春季生活闘争)』より筆者作成 ファイナンス 2018 Jul.49
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